B◆巻物◆

□ずっと、ずっと…
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窓辺の物干し竿にズラリと並ぶ白い布。

風にはためき、部屋にゆらゆらと影を落とす。

もちろん洗ったのは俺。

干したのも俺。

だけど汚したのは俺じゃない。

というよりも俺一人で、しかも一日で、こんなにも汚れ物は出さない。

普通に考えれば出す方が難しい。

まさか自分がこんなにたくさん洗濯する日が来るなんて、正直思ってもみなかった。

うんざりとしながら殺風景だったはずの自分の部屋を振り返ると、ここ何日かで増えた沢山の物が目に付く。

オムツ。

哺乳瓶。

粉ミルク。

極め付けがベビーベッド。

そう、大量のベビー用品。

俺は溜め息をつきながら、そこですやすやと眠るナルトを見下ろした。



あの日、三代目のところへ行くと「そうか、了解してくれたか…」なんて言いながらニコニコして俺の前にいろんな物を出してきた。あらゆるベビー用品から世話の手順の巻物まで、あまりに大量で俺一人では持てないのは明らかだった。

ましてや腕にはナルトを抱えていたわけだし。

「これらのほとんどは四代目がそろえていたんじゃよ」

「ああ、先生は好きそうですね…こういうの集めるの」

それを想像すると自然と笑みがこぼれた。

目に付いたらみんな欲しくなって買っちゃうんだろうな、とか。

しかもそれで大量になったのを奥さんに怒られてうな垂れてそうだな、とか。

でも「良いと思うよね?」なんて俺を味方に付けようとして来たりして、とか。

本当に大人げない人だったな…なんて思いながら、俺は手順の巻物を見ながら当面必要な物だけを選りすぐって適当な袋に詰めた。

もちろん選りすぐってもかなりの量になってしまい、三代目の命令で数人の下忍に手伝わせて家に運んだ。

下忍たちはテキパキと荷物を運びながら、俺の指示通りに荷物を配置した。手際の悪さに手伝おうとしたけど、俺たちの仕事です!…なんて断られた。

細かい指示を出すのは、それはそれで疲れる。

ましてや相手が理解力に乏しいと、その疲労感は倍増する。

俺は荷物が部屋に入ってしまうと、それで下忍たちを追い返す事にした。これ以上手伝われてもイライラするだけだ。

下忍たちも俺の不機嫌が分かっていたのか、ホッとした様に帰って行った。

そんなに俺は不機嫌オーラを出していただろうか。

まぁ、多少威圧はしてやったけれど。

「後で三代目に言っとくかな。下忍とはいえ感情を顔に出し過ぎだって………」

彼らを見送りながら俺は、腕の中ですやすや眠ったままのナルトの方がよっぽど無表情だよ…なんて一人ごちた。




ここ何日かで分かった事だが、三代目が連れてきた時は術をかけられていたとしても、それでなくてもナルトは良く眠る。

お腹がすいたり、オシメが濡れれば、泣き出すけれど、それ以外はずっと眠ったままだ。

普通の赤ちゃんがそうなのか、ナルトがそうなのかは比較対象がないから分からない。でも、おかげで想像していたよりは大変じゃない…気がする。

もっとも、何が大変というわけでなく、とにかく大変そう!としか思っていなかったのだが。

昼夜関係なく数時間毎にナルトの世話をするのも、忍として睡眠訓練を受けているからそれが深夜だからといって辛いわけでもないし。

言われた手順を守ってさえいれば、特に大変だとは思わなかった。




乾いたオムツをたたんで箪笥に入れ終わったとき、ちょうどナルトの泣き声が聞こえてきた。

そろそろミルクが欲しいと泣き始める頃だとは思っていたけれど、本当に時間ピッタリなんてよく分かるなぁ…なんてね。

赤ちゃんは食べる事と、泣く事と、寝ることが仕事なんでした。

「あ〜あ、面倒くさいね…」

言いながら、なんとなく綻ぶ俺の頬。

俺だけを頼って生きる存在に、俺は暗い喜びを感じていた。

俺がいなきゃ生きていけない存在があるから、わざわざ俺が生きていてあげてるんだ…そんな気分。

俺自身が生きたいわけじゃなくて、ナルトのために仕方なく。

そういう事で、無駄に生き続ける自分に言い訳してた。


どうしても、

四代目のいない世界で生きていくなんて無駄に思えた。

どうしても、

この胸に生まれた今までにない初めての感情を打ち消したかった。



俺は、仕方なくやっているんだから……

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