B◆巻物◆
□ずっと、ずっと…
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最初は本当にどうしていいか分からなかった。
赤ん坊に触れるのなんて初めてだ。
ましてや、今現在においては俺自身がまともに生活を送っているとは言いがたい状態だ。
そんな俺が他人の世話なんて出来るわけがない。
する気にならない、というのもあるが。
「俺にどうしろっていうのよ、全く……」
途方にくれるとはこういう事をいうのだろうか。
俺は天井を仰いだ。
薄暗い俺の部屋。
昔、父さんが死んだ時に荒れて家具らしい家具は全て壊した。
元の家は売り払い、今のこのアパートに来ても新しい家具を買おうとは思わなかった。
必要最低限、多少不便な程度の物しかない。
必要だと思えなかったし、むしろ邪魔だと感じた。全てが煩わしくて、何もかもを排除したかった。
最初はベッドすらなくて床にごろんと寝ていた。
だんだんと少しなりとも物が増えてきたのは、四代目が買ったり持ってきたりしたからで、捨てるに捨てられず…だ。四代目は変に子供っぽくて、自分が渡した物が無くなってたりすると拗ねた。
一度だけ要らないと捨てた事があったのだが、案の定四代目は拗ねてしまい機嫌が直るまでに相当時間がかかった。その上、後日同じ物をもう一度渡されたのだ。
だから、それ以来ずっと物を溜めてきて今に至る。
四代目のいなくなった今となっては、これ以上物が増える事はないだろう。でも、いなくなったからといって、今まで貰った物を捨てる気にもならない。
たぶん俺が死んでいなくなるまでこの状態のままだろう。
増えず、減らず、四代目がいた頃のまま。
しかしそれらも四代目が『俺の為に』買ってきたものなのだ。
つまり、子供の世話に使えるものなんて皆無だ。
タオル程度ならあるが、使い古しなわけだしゴワゴワ感は否めない。
必要なものは言えば用意してもらえるだろうが、何が要るのかも分からないからどうにも言いようがない。
これからの事を考えると気が遠くなるようだ。
でもこれは任務なのだと、自分に言い聞かせるしかない。
三代目は今までだって任務をさせようと思えば出来たのに、俺を放っておいてくれた。
もう潮時だというのは分かっていたのだ。
上忍ともあろうものが、子供の我が儘のような理由で任務を拒否し続けられるわけがないのだ。
俺はため息を付くと、まず試しにナルトを抱えあげてみた。
思った以上に軽くて、柔らかくて、俺は手の力加減にかなり気を使った。うっかり握りつぶしたなんて洒落にならない。
おまけにまだ首がすわっていないから、しっかりと支えてやらないとなんだか怖い感じだ。
何かをこんな風に、慎重に抱えるなんて初めての事だ。
「ナルト、ね……」
俺がそっと指を近づけると、ナルトがそれを掴む。
小さな、小さな手だ。
でも温かい手だ。
俺は自分では、自分が今どんな気持なのか良く分からなかった。
だけど、その温もりが触れた時に何とも言えない気持ちが胸に広がったのは事実。
安心させられる、とでも言うのだろうか。
俺は不可解な気持ちと、腕にはしっかりとナルトを抱えてたちあがった。
目的はもちろん、ナルトの世話に関して三代目に質問するためだ。
ここに篭っていてもどうにもならない状況なのだから仕方ない。
俺はナルトの為にわざわざ…なんて言い訳しながら、じつに数週間ぶりに自分の部屋の外へ出たのだった。