けいさんより御祝儀
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『一年。』
「阿部、何見てんの?」
「テレビ」
「うん、それはわかるよ」
帰宅してすぐ点けたテレビ。
19時というゴールデンタイムにやっているお笑い芸人がいっぱい出ている番組だが、特に興味がないので何の番組かはわからなかった。
ただ、なんだかがやがやしてるなくらいしか感想は思い付かない。
「おもしろい?」
「…さあ」
「見てるの?」
「見てない」
あっそ、と軽く答えた水谷はテーブルの上に乗っていたリモコンでバチンとテレビの電源を落とした。
なんだからしくないな、怒っているのだろうかと水谷に目を向けるがいつも通りへら、と笑っていて怒っているのではないとわかる。
「…なに、」
「やっぱり忘れちゃった?」
「なにを、」
「今日。なんの日か。」
今日。7月2日。
どちらの誕生日でもないし、他に近しい人の誕生日や記念日でもないと、思う。
わからない、という俺に水谷は少し淋しそうな顔をした。
それは一瞬だったが、罪悪感を感じるには充分で。必死に考える。
野球に関しては完璧な記憶力も私生活では全く役に立たない。それが、悔しい。
「…あんね、今日は一緒に住み始めた日なんだよ。」
「…あ…」
そういえばそうだった。
すごく中途半端な時期だったが水谷がどうしてもこの日がいいと言い出して。
「まあ忘れちゃってるかなーとは思ってたけど」
「ごめん、」
「いーよ、全然。俺が勝手に記念日にしちゃっただけだから」
「でも、」
早く帰って来てね、という珍しく言ったわがままも。
帰って来たら用意されていたちょっと豪華な食事もこのためだったのに。
「んと、じゃあこれだけ聞いて?」
「…ん、」
「一年間一緒にいてくれてありがとう。これからまた、とりあえず一年間、よろしくお願いします。」
「…こちらこそ、」
ずっと、一生、などと先のわからない約束を水谷はしない。
夢見てる風なのにその実すごく現実的だ。
だからこそ安心できるのかもしれないし、今まで続いて来た所以だろう。
「また一年」がそれこそずっと続けばいい。
そう思う俺がたぶん誰よりも夢を見ているのかもしれない。
END
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けいさんより結婚式のご祝辞小説をいただきました!
文貴は記念日とかをとても大事にするタイプですよね!(@゚▽゚@)
けいさんの阿部は、水谷大好きなのが伝わってきてとてもほわーっとします!
ありがとうございました!
20080702