名探偵

□秋の夜長
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金曜日の夜。肌寒い秋風の中、大きな屋根の家に灯りがともる。

「服部、寒くなかったか??」

「いや〜、油断しとったわ!!夜はこないに冷えるんやなぁ。」

この家の主である少年と、大きなスポーツバッグを抱えた客人。

二人は玄関をあがると、もっていたコンビニ袋をリビングの机に置く。

「俺のジャージかしてやるよ。」

「おおきに、ほな、準備しとくな〜」

いそいそとコンビニ袋をあけ、中から酒をとりだす服部。

その様子を横目で見ながら、新一はこっそり微笑んだ。



「なぁ、よく考えたら、二人で飲むなんて、初めてじゃねぇ??」

乾杯した缶ビールを片手に新一は話す。

「そうやな、なんてったって、工藤はちっこかったさかい、ジュースしか飲めんかったもんなぁ〜」

ニヤリと意地悪に服部が笑う。

考えたら、新一として服部の側にいることは今まで殆んどなかったのだ。

「でもま、今日は工藤が元に戻った祝いやから、俺がおごったるわ!!」

「バーロ、いいよ、無理すんな。大阪からきてくれただけで十分だぜ。」

和やかな雰囲気なまま、酒の缶が空いていく。

まさか、工藤と飲む日がくるとはなぁ…



…しばらくして。

「だあーかぁーら!!!あれは俺が!!!!」

「ちゃうわボケェ!!あれに気づいたのは俺やって!!」

新一は調子に乗ってか、5本ほどあけたところから、明らかに酔い始めた。

「くどぉ!飲みすぎやって…もちょい、ゆっくり飲めんのかぁ??」
余りに早い彼のペースに驚いた平次は、近くの缶を自分の方に寄せる。

まさかあの工藤新一がこんなに無茶な飲み方をするなんて思わなかった。

「…しゃあねぇだろ、服部に会えて、テンションあがっちまったんだよ。」

平次の動きがピタッと止まる。

「…えっと…。工藤??」

「最近会えねーから寂しかったし…。俺、おかしいのかな…。」

平次は嬉しいの半分、驚き半分で、口をぽかんとあけたまま固まってしまった。

普段めったに寂しいだの、嬉しいだのと口にしない友人が、次から次へと柔らかい言葉をはく。

「酒ってこわいんやなぁ…」

一人ポツンと呟いたとき、今まで向かいに座っていた新一が立ち上がった。

「どないしたん??」

「ん〜、隣に座る。」
「はっ??」

平次が固まる間に、新一が隣へ移動する。ソファが二人の重みで少し沈むのが分かった。

「ど、どないしたん??」

いつもと姿が違う上に、やけに柔らかい新一に戸惑いを隠せない平次。

自分も酔うことは酔うが、こんなに変わるわけではないので、どう対応すればよいのかわからずにいた。

「服部ぃ、明日はどっかいく??」


あ、工藤はやっぱおっきくなってもまつ毛長いんやなぁ……じゃなくて!!!
なに考えてんねん俺!!
赤らんだ顔で見つめられると、変な気分になってくる。そんじょそこらの女性より、綺麗な男がアップで迫ってくるのだ。

「あ、明日は…!そうやな…く、工藤がいきたいとこで…えぇ、でっ…!?」

目を反らしながら話していたら、首ごと新一にもっていかれた。

「バーロォ、目ぇ見て話せよ。」

…あれ??

「…会いたかったぜ服部。」

…あれ???


首をもっていかれたと思ったら、いつの間にか平次は新一の腕の中におさまっていた。

「…く、くどぉさん…??」

「せっかくもとに戻れたんだ、祝ってくれるんだろ??」

確かにそういったけれど。この状況はなんなんだ…!?

「なぁ、一つでいいから言うこと聞いてくれねぇ??」

イヤだ、この状況での願い事なんてろくなもんじゃない…!!

「工藤よってんやろ!ちょ、離れろやっ…」

なぜ自分の心拍数が上がるのか理解できない。とにかくこれ以上新一にくっついているとどうにかなってしまいそうだった。

「…ケチ。」

「ケチでええ!!」

「…じゃあ、耳かして。」

「へ?」

「いいから、耳かせよ。」

「あ、おう…」

なんとなく、右耳を新一にあずけて、新一が「あのな…」と言葉を告げる…と思ったら。

「ん…!?」

ちゅ。

…あれ??なんや今…工藤とキスしたなぁ。


……

…………は!!??

「くっ!!工藤っ!!!」

「バーロ、反応おせーよ。祝ってくれるんだろ??今日は俺のすきにさせろ。」

…あれ?!

「工藤…、酔ってへんのか…??」

「ったりめーだろ、あんなで酔うと思ってたんだ??」

ニヤリと独特の笑を浮かべる東の名探偵。
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