小説

□久々の訪問者
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―――ガチャッ

自室とも言うべき実験室に戻り、一段落着いたところで机の上が片付いている事に気付いた。
普段から片付けてはいるが、講義前に少し散らかして出ていたはずだった。

「…?」

今日は実験をしない為人が居ないハズなのだが、物好きな学生なのか、姿は見えないが誰かが本を積み上げていた。

(そんなやつ居たか…?)

腕を組み、考えていると横からコーヒーを差し出された。

「お疲れ様です。」
「あぁ、わる…!?お前っ!!なんで!」
「お邪魔してます。」

横に立っていたのは萩由だった。
驚愕して萩由を見ていたが、徐々に眉間にシワが寄った。

「何の用だ。」

声のトーンは下がり、発っせられる声は不機嫌そのものだ。
雪騎が萩由を嫌がるようになったのは今に始まった事ではない。
彼をそうしてしまったのは萩由自身でもあるから。
けれど、心底嫌っている訳では無い。
だからこそ、萩由はいつもの笑顔で対応している。

「立ち寄ったんで、顔見せに行こうかなぁっと思いまして。」
「んなもん要らん。」
「まぁまぁ、そう言わないでくださいよ?」

雪騎はがさがさとポケットの中を探始めた。
お目当ての煙草を取り出し、火を付けた。

「煙草なんて止めたほうが良いですよ?」

積み上げていた本を50音順に並び替えながら萩由は言う。
お互い目を合わさず、声だけが届く。

「……うるせぇ。俺の勝手だ。」
「まぁ、吸うのは雪騎の勝手ですけど、周りに居る僕たちにも害が及ぶんですよ。」
「周りってお前だけだろ?それなら俺は構わん。」

萩由は苦笑いして、扉の方を見た。

「僕だけなら良いんですけど…ね?雨璃。」
「っ!?雨璃!?」
「…ただいま…」

雨璃の姿を見つけるやいなや灰皿に煙草を押し付け、水を入れて確実に消し、窓を開けて換気を促した。
雨璃は萩由に買ってきた物を渡した。

「…はぃ」
「ありがとうございます。雨璃、雪騎に挨拶は?」

コクッと頷き、軽い早足で雪騎に近寄った。
雪騎はというと、手を洗い心なしか慌てている様だ。

「悪い!煙草臭くて…」

――フルフルッ

雨璃は頭を振った。
雪騎は萩由の時とは一変して、雨璃にはとてつもなく優しい。
やはり亡くなった妹の面影が被るのか、もしくはただのロリコンなのか。
真相は定かではない。

「…こんにちは…」
「いらっしゃい。今日は何の用かな?雨璃だったら用がなくても許すけどな!」
「…今日は…お菓子を…」

そう行って差し出された手に握られていたのはお菓子の袋だった。

「え?…俺に?」
「…はぃ…」
「雨璃が全て作ったんですよ。」
お菓子を受け取ると、雪騎は雨璃に抱き着いた。
雨璃はびくっとして固まったまま大人しい。

「ありがとう雨璃!」
「あ、はい。」

抱き着いたまま雨璃の頭を撫でている。
と、そこへ片付けを終えた萩由がやってきた。

「雪騎も帰ってきて、本棚も片付きましたし…」
「頼んだ覚えは無い。」
「まぁそう言わずに。雨璃のクッキーも有ることですし、お茶にしませんか?」

袋から出したティーパックを片手に持ちながら微笑む。

「…私入れてきます…」
「んじゃー、雪騎はそこのテーブルに居てて下さい。」
「てめーに言われなくとも居るっての。」

カタカタと数分後にはテーブルにティータイムが出来るようになった。
雪騎と萩由の間に雨璃が入り、3人で仲良く…というわけでは無いが、
ささやかな幸せなティータイムを実験室は迎えることとなりました。

またこの実験室に訪問者が来るのは別のお話。





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