小説

□萩由片目過去話
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僕は昔から何事もそつなくこなせた。
親の言う事を聞き、エリートコースを直進。
そうすれば誰にも迷惑は掛けない。
苦労はしない。

そう思っていた。


だか所詮ロボットの真似は真似でしかなかった。

僕は心を持っていた。
消え去っていたと思っていたが違った。


僕自身が閉じ込めていた。
閉じ込めるだけだった。


自分自身が解放されたのは“彼女”だった。
彼女に会わなかったら……

今の僕は無い。

普通に恋をした。
普通の女性に。

だが―――


僕には普通の恋は許されなかった。


エリートコースを歩んでる僕。
普通の平凡な生活の彼女。

こんな二人を親が許してくれるわけがなかった。
親は僕にはそれなりのエリートを望んでいた。

だから、親には何も言わず僕自身の独断で彼女と付き合った。

僕は…僕には――
彼女しか要らなかった。

隠し事は時期にばれる。
親は僕たちの関係を知った。

それからは僕の回りには付き人が付いて、彼女とは会えなくなっていった。

息苦しく、気が狂いそうだった。
数週間会えなくて、苦しくて…。

突然、電話が鳴った。
親は丁度いなかった。
付き人の手を払い、電話に出た。

彼女だった。
泣いていて、苦しそうにか細い声で僕の名前を呼んだ。

そして、一言。





―――幸せになってね萩由―――




僕には彼女が死ぬ決意を決めたのがわかった。

どうにかして止めなくては―――!!

彼女の家まで無我夢中で行った。どうやって行ったのかは覚えていない。



ただ……




着いたら彼女は飛び降りていて、地面が赤く、あかく、紅く染まっていた。

僕は彼女を助けられなかった。
彼女は僕の為に死んだ。



初めて好きになった最愛の“彼女”




彼女の為に。
自身の為に。
生きることにした。
彼女が望むのならば。
彼女の為に生きる。


そして僕は、彼女の為に右眼を差し出した。
えぐり出しはしていない。
彼女との通路になるように。
思い出が消え去らないように。
瞳を閉じて、二度開けることのないよう、縫った。





―――彼女が居てくれるように。






――――――END――――――



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