小説

□雪騎と萩由
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「雪騎…僕は…」
「萩由」


久しぶりにこいつの名前を呼んだ。
呼んでしまうと、昔を思い出すから嫌だった。
思い出す度に、苦しくなる。
楽しくて、仲良かった頃を思い出すと、憎む相手が居なくなるから。


「でも…俺はお前を許せない。」
「それは…わかってます。」
「なら……歯、食いしばれ。」

───バシィィッ!


俺は萩由の顔面に思いっきり拳を食らわした。


───ドンッ!バサバサバサ…

「…くっ…」


避けずに受けた萩由はよろめき、本棚にぶつかった。
ぶつかった衝撃で数冊本が散乱した。
俺の本気で殴った拳が痛かった。
その拳を広げ、萩由の目の前に差し出した。


「まだ…殴り足りないんじゃないですか?」


本棚に寄りかかったまま、萩由が呟いた。


「あぁ。殴り足りないな。けど、これ以上親友を殴る気はない。立て。」
「!!…すみません…。」


俺は萩由を引っ張りあげ、いつもの席に着いた。
しばらく困惑した様子で黙ってその場に立っていた萩由が、口を開く。


「僕は…雪騎の親友のままでいいんでしょうか…」


呟きにも似た質問が、聞こえた。
顔を合わせず、俺は答えた。


「絶交してないから良いんじゃないか?」
「…ありがとう…」









傷口は深くとも塞がらない事はない。


ならば、前みたいには戻れなくとも、前の様に近づく事は出来るだろうか。


長くなったとしても。


───end―――
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