Cantabile

□ボーダーライン
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ボーダーライン



「俺、マスターのこと大好きです」

俺がそう言えばマスターは躊躇うことなく首を縦にふる。

「私もカイトのこと大好きよ」

さも当たり前だと言わんばかりに微笑むマスター。

「一番ですか?」

「えぇ、もちろん」




嘘つき。


マスターの嘘つき。


嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘ツキ嘘ツキ嘘ツキ嘘ツキ嘘ツキ嘘ツキ嘘ツキ嘘ツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキ



―嘘、ツキ



知っているんだ。

マスターの“一番”は俺じゃないこと。

マスターの“好き”は俺が欲しいそれじゃないこと。

最初はそれでも良いって思ってた。

マスターが笑ってくれるなら、マスターが幸せならそれが俺の幸せだって。



でも。



俺には向けないような声色で嬉しそうに電話にでるマスターの姿。

会社に持って行く二人分のお弁当。

いつもとは違う気合いの入った格好で出掛けていく休日。

煙草を吸わないマスターの髪に纏わり付く不快な煙草の臭い。

マスターの隣を歩く、俺の知らない他の男。



見たくない。

見たく、ないのに目について。

大好きなはずのマスターの笑顔にさえ酷く心を掻きむしられる。

日を追うごとに攻撃的で破壊的な衝動が加速度的に俺の内に広がっていく。

―壊レロ

鉛を飲み込んだように深く冷たく沈んでいく心と焼け付くような嫉妬心。

―彼女ニ 近ク者 全テ 壊レテシマエ 


俺がこんな風に思っているなんて夢にも思わないでしょうね。

「俺もマスターが一番です」

憎くて憎くて憎くて、どうにかなってしまいそうなほどに。



愛しい。



「可愛いこと言ってくれるなぁ。よし、今日の晩ご飯はカイトの好きなものにしようか?」

「本当ですか?じゃあ俺、ハーゲンダッツが…」

「却下」

「えぇ〜!」

「えぇ〜、じゃないのこの馬鹿!晩ご飯のメニューを聞いてるのよ!!」

今はまだ従順で馬鹿な貴女のカイトでいてあげます。

だから、マスター。

これ以上、俺を裏切らないで下さい。

境界線を越えればきっと俺、は―




(貴女ヲ壊シテシマウカラ)




Fin


アトガキ
ヤンデレを目指してみて挫折。危うい片思いというかヤンデレ一歩手前というか。色んな意味で土下座。


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