Cantabile

□俺とアイスとお姉さん
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好きなものはハーゲンダッツ。

それもコンビニとかじゃなくてハーゲンダッツショップで買うコーンのやつが一番好きだ。

コンビニのフリーザーでカチカチになったのよりもショップで適度な柔らかさに保たれたバニラの味は格別だと思う。

とにかくハーゲンダッツ万歳なんだ。

幸いなことに俺のマスターの自宅の近くにはハーゲンダッツショップがある。

マスターは相当なけつかっちんだけど上手く歌えた時やマスターの機嫌がいい時にはそこに連れて行ってくれる。

そんな時だけは俺のマスターはこの人で良かったって思う。

でもマスターはケチだからいつもシングルコーンしか買ってくれない。

今日も250円だけ渡されてお店に来ている。

本当は抹茶白玉サンデーとか食べてみたいけどそんなこと言ったらエルボー喰らわされてハーゲンダッツ禁止令とかだされかねないからとてもじゃないけど言えない。

店内に入るとハーゲンダッツのお姉さんと目が合った。

耳に心地いい声で“いらっしゃいませ”と出迎えてくれる。

俺がアイスを買いに行くとだいたいこのお姉さんが接客してくれる。

俺がショーケースに行くと“いつものですか?”って聞いてくれる。

だから俺もちょっと常連の優越感に浸って“いつものやつで”なんて答えてしまう。

お姉さんにお金とスタンプカードを渡す。

「…あ」

思わず声が出た。

マスターに内緒でこっそりと貯め続けてきたハーゲンダッツのポイントカード。

あと1ポイントでダブルが貰える。

次に来たらフルポイント。

次の次はダブルでバニラとヘーゼルナッツ。

そう考えただけで頬が緩んだ。

そんな俺の様子を見てお姉さんはふわりと微笑む。

「アイス、お好きなんですね」

「え…?あ、はい…」

何だかこんな事で喜ぶ自分が子供じみているように思えて思わず紅くなる。

「いつも来てくれてるでしょう?だから―」

―サービスです

と、人差し指を唇の前に持ってきて内緒ですよと微笑んでポイントを一個余分に押してくれた。

そんなお姉さんの仕種に、ドキリとした。




あの日からスタンプで一杯になったこのカードを見るとお姉さんの顔を思い出してドキドキする。

次に行った時はダブルコーンのバニラとヘーゼルナッツ。

それから。

―お姉さんの名前を教えて下さい



Fin


 

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