炎の紋章小説

□愛の使徒の贈り物
1ページ/2ページ



コラボ注意


「あ、もう‥明日だ。」

ぼんやり思うのは愛しい人の誕生日。あまりの出撃の頻繁さに、終ぞプレゼントを用意できなかった。それでも何か、明日は彼に何かをしてあげたい。

「早く帰って‥、ゼロへの誕生日プレゼントを、何にするか考えなきゃ‥。」

そう思い、疲労しきった体を夜神刀を杖がわりにして立ち上がり、辺りの気配を探り警戒する。

盗賊や謎の敵の襲撃が各地で起こり、対処に忙殺されていたカムイ達。広範囲の襲撃のため何班かに分け鎮圧に向かい、今の場所での襲撃を退ければ、漸く進軍を再開できる。だがその前に、その分だけの休息を取らないと。

ガサリッ!
「っ?!」

近くの茂みから音が聞こえ、警戒を強める。
回りに見知った気配も無ければ知らない殺気もない。しかしそれが隠密か野性動物かわからない為、その音に警戒する。

ガサ、ガサ!
「・・・っ、」

音が次第に近づき、強張る。

「まったく、何処に行ったのか‥。」
「っ!」

現れたのは、見慣れないローブを纏った人だった。顔はフードにより影になってあまりよく見えないが、髭を生やしていることから男性だとはわかった。

「人‥?」

こんなところに現れたローブの男だが、場所が場所なだけに警戒心が募る。

「ん?怪我をしているのか?」

ポツリと呟いた声を拾ったその人物が此方に気付き、傷だらけなカムイを見て近付いてくる。

「っ?!」
「動かないで。傷の治療をさせてくれ。」
「‥治療?」
「ああ。私は司祭でね。怪我人を見ると、放っておけないのだよ。」

近くに歩みよりテキパキと、鞄から治療薬や包帯などを出して、警戒するカムイに治療を施していく。最初は気付かなかったが、皺が見てとれたその顔は灰色がかり目はカムイよりも濃い赤い目をしていた。一瞬恐怖を抱くも、決して如何にしようなどとは到底思えず素直に手当てを受けた。

「あの、司祭の方が、何故こんなところに?」
「一緒に旅をしている者と、はぐれてしまってね。探していたら、君を見つけたのだよ。ほら、これを飲みなさい。疲労回復の薬だ。」
「は、はい。」

苦笑する司祭に、呆気にとられる。しかし、気付けば盗賊等に負わされた傷は全て手当てされ、渡された薬を飲めば、疲れきっていた体が楽になった。

「凄い。疲れが取れた‥。」
「はい。手当ては終わったよ。具合はどうだい?」
「は、はい。‥大丈夫です!ありがとうございます!っあ!」

礼を述べれば、しかし、その勢いで、仕舞っていた大事なものが飛び出してしまった。

「す、すみません!」
「いや、はい。どうぞ。」

拾ってくれた司祭はすぐにカムイに返してくれた。

「君は、結婚してるのだね。」
「は、はい。」
「ふふ。私は、愛を司る神に仕えていてね。愛の最たる儀式をした者に会えて、嬉しいよ。」

落としてしまったのは、鎖に通してペンダント状にしていた指輪で、先程の戦闘で鎖が千切れてしまい懐に入れていたのだ。シンプルながらも精巧に作られたそれは、見るものが見ればわかる結婚指輪だ。
それを見て、司祭はふむ、と一つ頷いた。

「そうだ。結婚してる君に、此れを差し上げよう。」
「え?」

徐に鞄を漁り、小さな箱を取り出したその人は、箱を開け、それを差し出した。

「これは?」
「これは“婚姻の絆”と言って、結婚した男女に渡される、我が神マーラの祝福を受けた指輪だよ。」

それはカムイの持つ指輪の更にシンプルな金色の指輪で、しかし、何処か魔力のようなものを感じる、不思議な指輪だ。

「もし良かったら、我が神の祝福を、君たち夫婦にももたらさせてくれたら嬉しい。」
「あの、なにもしてないのに、貰っては悪いです!」
「なに。君が居たからこそ、私は探してる者を見つけることが出来たんだ。」
「え?」
「ほら、出てきなさい。」
ザッ!
「っ?!」

まるで忍のごとく、木の上から降りてきた人物に驚くカムイだが、司祭は驚くこと無くフードの奥で笑みを深めた。その人物は着地した衝撃など無かったかのように立ち上がり、司祭を見据えた。

「‥貴方は俺の気配を感じてたのか?」
「解るよ。愛しい君の、可愛い嫉妬で揺らめく気配などね。」

ムスッと拗ねたようにするその人物に司祭はその頬を優しく撫でる。司祭のその手に輝く金色は、渡された指輪と異なる色合いだが、撫でられる者の指に輝くものと同じだった。


「彼が私の探してた者だ。君の手当てをしていたときに、こっそり木の上にいたんだよ。」
「き、気付かなかった‥。」
「当たり前だ。盗賊の俺が素人相手に気配を勘づかれたら、マスターに殺される。」
「マーラに誓って殺させはしないし、第一、私も素人だがね?」
「‥貴方は別だ。」

カムイには険を向けるが司祭には殊更甘さを向ける盗賊だと名乗る人物は、小柄でサファイアをあしらったサークレットを身に付けていたが声からしてれっきとした男性だった。
司祭と盗賊。明らかに正反対な二人が、まるで恋仲のように見えるのは、自分と伴侶が被って見えたからか。

「無事、彼を見つけられたのは君のお陰だ。だから、受け取ってくれ。」
「‥そう言うことなら、喜んで受けとります。ありがとうございます。」

小箱ごと指輪を受け取り、指輪を手に取ったカムイ。見ただけでも感じられた魔力が、手に取った瞬間、まるでふわりと暖かな気持ちをもたらしてくる。

そして、散々悩んだ恋人へのプレゼントが決まった。

「‥それ、」
「?何、ですか?」

突然盗賊の彼が話しかけてきたことに内心驚きはしたものの、カムイは彼を見た。

「‥その指輪、結婚した男女に渡されるものだが、俺達の居たところでは、性別も種族も関係なく結婚できた。だから、アンタが誰と結婚してようが、マーラはアンタ達をきちんと祝福してくれるから。」
「?!」

まるで見透かされたように告げられ、カムイは驚いた。司祭にも結婚してることは知られているが相手までは聞かれなかった。だから内心嬉しさと戸惑いがない交ぜだったが、盗賊の彼の言葉に、嬉しさが勝った。



「では、我々はもう行こうか。」
「あ、あの!まだもしかしたら残党がいるかもしれないですから、気を付けてください!」
「それ‥、ああ。わかった。気を付ける。」
「心配ありがとう。君も、早く帰るようにね。」
「はい。」

さよなら。と、不思議な司祭と盗賊と別れたカムイ。
歩き出してすぐ、二人が気になり振り向けば、まるで最初から居なかったかのように静寂しかなかった。残ったのは、手当ての跡と、小箱に入った指輪だけだった。

「あ、名前を聞くのを、忘れてた‥。」

ポツリと呟くカムイもまた、星界への入り口を目指し、その場を後にした。






誰も居なくなったその場所から数メートルも離れていない場所では、矢が刺さり絶命した盗賊や残党などが居たことは、誰も知らない。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ