零式小説

□休める場所
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ぐるぐるぐる

頭の中が回る感覚

時折

キンッ

と何かが突き抜ける感覚


酷く

キモチワルイ











声が聞こえる
















「おめぇさん、此処で寝てると風邪振り返しますぜ。」


頭に響く声と違い、耳に響く声にゆっくりと顔を上げる。

「いっくら珍しく晴れてるからってこんなバルコニーに出て昼寝たぁ、一応候補生様でもルシ様でも風邪が悪化しますよ。」

普段の従卒の服の上から桃色のダウンジャケットを着た少女、アリアが白い息を吐きながら目の前に立っていた。

「‥寒くはない。」
「あんたが寒くなくっても見てる此方が寒いんだ!大体熱も下がってないんだから外に出ないでベッドで寝ていやがれ!」

心配しているのかわからない粗悪な口調だが、やはり心配しているようで持っていた黒のロングコートを投げられた。

朱雀から戻ってきたマキナは、体が雪に濡れているのにも関わらず疲労困憊故か意識を失い、そして見事に風邪を引いてしまった。ルシとなっても風邪は引くようで、兜を取って露になっている顔は酷く上気して目もやや虚ろだ。

「‥あいつは、」
「准将ならとっくに出陣しましたぜ。今日は小さな小競り合い程度だからルシの力は借りなくても良いと上から言われやがったらしいですよ。」

それを聞き覚束無い足で立ち上がり、よたよたと部屋に向かっていく白のルシ。それが大人しくベッドに向かうなら良しとするが、その足はベッドを過ぎ、扉に向かっていくのだからアリアは白のマントを掴みベッドへと引きずり戻す。

「だから、とっととベッドで寝ていやがれってんだ!」
「‥熱はない。」
「だったらその真っ赤っかな顔はどう説明しやがるんですかい!それに昨日あんたが寝てる隙に熱計ったら普通よりも高い熱がありやがったんだからな!」
「‥」

風邪を引いたマキナは逆らえないような剣幕をした少女に渋々とマントを取りベッドに入る。それにアリアは満足し、暖かな部屋では邪魔になるジャケットを脱ぎベッドの横の椅子に座り、冷たい氷水に浸けたタオルを絞りマキナの額に乗せる。

「そうやって大人しく寝てれば早く治るってもんなのにな。」
「‥うるさい。」
「そう思いやがるんならさっさと寝て風邪を治すんだな。准将がそう言っていやがったぞ。」

自分が心配していてもそれを見せようとせず他人がそう言っていたように告げるアリア。
ひとまず落ち着いてベッドに横たわるマキナを見ながらアリアはポツリと呟く。

「‥おめぇさんは無理しすぎですよ。朱雀で眠ることが出来ないなら此処でゆっくり休んだ方が良いですぜ。」

白虎のルシでありながら朱雀の候補生という矛盾を抱えるマキナ。朱雀にいる間はクリスタルの意思による自我の喪失を恐れ、眠ることは愚か心休まる時が無い。それ故にマキナは朱雀から戻ると常に覚束無い足取りで部屋を歩き回り声の聴こえない場所を探そうとする。今に消えそうな恐怖から逃れるように。

「あんたが自分を忘れても、私や准将があんたを覚えてるし自我が無くなっても側に居てやるって。だから今は何ににも苛まれずにただゆっくり眠っていつもの調子を取り戻しやがれ。」
「‥ふん。」




やがて珍しく穏やかな寝息が聞こえてきて、アリアは別室にいる番猫であるクァールをマキナの見張りとして呼び、自身は次にマキナが目を覚ましたときに食べられるようにとお粥を作りにキッチンに向かった。



END



*おまけ*

後日見事に風邪を引いたアリアはマキナに看病されていた。

「ハックシュ!」
「完全に風邪だな。」
「おめぇの風邪が移りやがったんだ!ックシュ!」
「騒ぐな。静かにベッドで眠っていろ。そうすれば早く治るだろ。」
「ちぐしょう‥。グズッ‥。」
「暫く寝ていろ。お粥作ってくるから。」
「‥リンゴのすりおろしたやつも。」
「はいはい。」
「あと‥、」
「なんだ?」
「‥眠るまで、側に居やがれ‥。」
「‥ふっ、解ったよ。」





**後書き**
風邪引きネタ。
精神面な話から風邪っぴき話になった。シリアスは苦手ですコノヤロウ。
何気にこの二人好きです。お兄ちゃん(次兄)と妹。


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