零式小説
□短い恋文
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暗い執務室に戻れば、当然そこには誰も居ない。居ればそこは光が灯り、暖房も入って暖かい。しかし誰も居ないそこは冷えきっていて寒さしかない。
彼の少女は別室の仮眠室で休んでいるのを先程確認してきた。眠る少女に戦禍の憂いが少しだけ薄れた。
そして、普段この執務室にいる筈の少年。居ないのであれば、恐らく残る自我により朱の国へと戻ったのだろう。
それに些かの落胆を覚えたのに、自覚はあった。
それを振り払い灯りを点け暖房を入れ、執務机に近付いた。
「ん?」
普段は少女や少年が寛ぐ為にティーセットやお菓子が置かれるガラス製のテーブルに、それが置いてあった。
それを拾い上げ、中を見た。ともすれば走り書きである紙に書かれたそれはたった一文。
「‥ふ。」
書かれていたそれに、小さく笑みを溢した。落胆が、淡く暖かいものに代わった。
『大好き
Cへ』
走り書きでも流れるような筆跡は間違いなく少年のもので。ただの一文が、カトルにとって、何よりの言葉だ。
「‥早く帰ってこい。返す言葉を書いて待っているから。」
その恋文はプライベート用の引き出しに大事に仕舞われ、上質な便箋を取り出すと、短い文を書いて封筒に封入された。
『愛してる
Mへ』
それを見た少年の表情を想像して、カトルはまた小さく笑みを溢した。
END
**後書き**
5月23日が“ラブレターの日”ということで、カトマキで恋文書かせた。恋文か?とツッコミしてくれてOKです。碧夜も思ってます←おい
てか、ついぞマキナとアリアの名前が出てなかった‥!