零式小説

□まだ名前の無い感情
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配属された部隊が違うからそいつを直に見る事はなかったが、噂だけは既に方々から聞いていた。

人望厚く部下想い、誠実で礼儀正しく、ブラックバーンを使いこなす天才肌

かいつまむとそんな評価が聞こえてくる。
事実、あのじゃじゃ馬はルシ殿の力を最大限に使ったガブリエルや現在開発に取り掛かっている悪魔の兄弟機と言って良い代物で、戦闘魔導アーマーの中でもピーキー過ぎる代物は完成当初の乗り手が悲鳴をあげたため暫く乗り手が居なかった。

そしてやっと新たに決まった乗り手がこの目の前で警戒心の欠片もなくにこにこと笑っている優男で。


直に見て感じたのは、戦争に向かない弱い奴。

軍服の下は若いながらも軍学校からの首席上がりで必要な肉体にはなっているだろうが、纏う雰囲気が偵察で垣間見た朱雀の腑抜けた民草の惚け惚けとしたものに似ていた。穏和という言葉は正にこいつの事かというのを見た瞬間に思った。


幾ら鋼機を扱うその手腕は優れていても、この場に居ても意味は成さない気がしてならない。

その顔に一発入れればすぐ終わりだと思った。





(おいおいおい!?)

一瞬で淀んだ空が眼前に広がる。しかしその一瞬をどうにか身体を捻り背中からの叩き付けを回避する。背中の代わりに利き腕を地に着きバネの要領で受け身をとって距離をとる。

(マジかよ‥!)

攻撃を鋳なされその勢いのまま身体を投げられるなど想像すらしなかった。
ジトリと背に流れる汗を感じながら相手を見る。

先程と変わらず佇む優男は一転、穏やかだが目だけは名前の如く冷たく正に軍人として相応しい厳しいもの。
そして華奢とまでは行かずとも細い手足からは重い一撃ではなく速さを活かした体術が繰り出される。

「‥ふ、そうこなくちゃなぁ?」

冷静に見ればまだまだな其を動揺している今は紙一重で回避するのがやっと。しかしだんだんと落ち着いてきたから余裕も生まれ攻撃へと転じられる。


結果から言えば此方の勝ち。
鋼機のパイロットとしての体力と、地上の最前線の斬り込み部隊と暗殺部隊も兼任する自分の体力では直ぐにその差が出るのは明白。

しかし入隊以来敗北したのは白雷や当時の教官以外にはなく、敗北せずとも苦戦を強いられたことは皆無だった自分に一瞬の危機を与えたこの男を存外気に入ったのはその時からだった。




「今年も貴方が相手なのですか?」
「テメェの部下や上司の根回しだ。お前が俺を倒すのを見たいんだとさ。」
「‥それはある意味私の連続敗北ではないですか。」

帝国国立記念の祭典行事の1つに白虎兵達による模擬戦がある。立候補から配属部隊からの推薦等で集まった十数人を武器を使わず戦わせるものだ。

しかし前回のモルスがフェイスを一瞬の不利から逆転勝ちしたのは、最高高官達以外からは不満だったらしく、狂戦士故の厄介者である自分を嫌う上司や部下、彼のファンである数だけ多いしたっぱ達の手腕で実現したフェイスからしたら迷惑極まりない組み合わせでしかない。

苦笑を浮かべる男はしかし直ぐに綻ばせふわふわとした白虎兵に不釣り合いな笑顔を向ける。

「ですが、英雄と謳われる貴方とまた手合わせできるのはとても嬉しいです。」

本心からの言葉だろうそれに柄にもなく熱くなるのは称賛など遥か昔以来だからだろう。

「ふん。なら、また返り討ちにしてやるよ。」
「それは流石に、そう簡単にはやられないようにしますね。」

軽口で返せば流石軍人、負けない気でいることにこちらもやる気が出る。

ここまで気に入った奴はそうそう居ない。
こののめり込み加減が何なのかは今は解らないが目の前の男との戦いは存外楽しいものだ。



END


**後書き**
マキナ関係以外のCPって何だかんだで初めてです。
ましてマイナー処でないやつだし。
催事とか知らん。

モルスの性格や配属は完全な捏造です。
この話を書き出してから漫画を再読したんですが、我が家のモルスは色々違ってます。
英雄論を抜いた結果、戦闘狂ではあるが大分おとなしくなった気がする。誰おまです。


フェイスも色々捏造入ってます。ゲーム版の容姿。
我が家のフェイスのイメージはpixiv内で見かけた絵描き様のイメージが強いので、普段はお花が飛ぶふわふわ系男子。名前は伏せますがカトマキアリを好きになったきっかけの一人です。(炬燵とマキナとクァールで検索したら出てくるかも)

勿論、どんなフェイスもモルフェでモグモグしたいです。
個人的に年齢差はモルス26歳フェイス24〜5歳くらいにしたいです。‥隊長と同じ年齢とか気にしないで。



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