零式小説

□砕けたモノ
1ページ/1ページ



彼は傷だらけで皹だらけだった。
衝撃で崩れさるほどの脆さであり、崩壊寸前だった。



「っ!アリア!」

凶弾に倒れた少女に悲鳴をあげたのは誰か。
そして少女の報せを受け駆け出していく同補生達を呆然と見た。

彼女を置き去りにするわけにはいかず駆け出そうした。

「待てマキナ!アリアは置いていく!」
「な、なんだと?!」
「アリアの記憶はある。死んではいない。」
「ならば今は無理でも助けるチャンスはあります。今は耐えて、態勢を立て直しましょう。」
「な?!」

彼等の言葉に絶句した。

何処かで何かが音をたてる。

しかし腕を引かれて唯一の出入り口に差し掛かる。

それを阻止しようと銃口が此方を向いた。しかし、1つの銃口は倒れた少女に向いていたのを見付けた。

咄嗟だった。


「マキナ!!」


バーンッ!!


その音を最後に目の前が真っ白になった。





逃げていく朱の魔神を追跡するためアルマダに潜んでいた部隊の半数以上が出ていった。

残ったのは数人の配下と自分だけだった。

「准将!この娘をどうしますか?」

問われ肩と足に弾が当たり倒れ気絶した少女を見れば、屋敷に飾られた肖像画によく似た少女で不思議と惹かれた。

「その娘は我が預かる。」
「へ?」
「我がその娘の身柄を預かると言ったのだ。医務室へ運び手当てをしておけ。」
「は、はい!」


担架で運ばれる少女が出ていくのを見届け、再び視線は下へ戻された。

朱いマントを羽織った少年。青年と言っても差し支えないが密偵からの報告からまだ十代であるこの者はカトルにとって少年だった。

唯一仕留めた(しかし弾は肩を貫通し命に別状はない)朱の魔神。
なれば情報を吐かせ、無理ならば拷問をして、それすら無駄なら殺す。それが朱の魔神を捕らえた際に行う処置だ。

「こやつは生かし牢屋へ‥「ル、ルシ・ニンブス!」何?」

突如、この国のクリスタルよりもたらされた兵器、甲型ルシ・ニンブスが現れ、カトル以外の兵士達は動揺する。

それを意に返さず、ニンブスは倒れる朱の魔神の側へ行き膝をつく。そしてその傷口へ手を翳す仕草にカトルは問う。

「何をしている。」
「この者は引き継ぐ者。」
「引き継ぐ?」
「クンミの後を継ぎし者。」
「何だと?」

先の作戦で消息不明となった乙型ルシ・クンミは今のこの国になくてはならない存在故今だ捜索している。

「クンミはその力を託すためにあった。そして力をクリスタルを介しこの者へ託し、昇華する。」
「“する”?まだ生きているならばトゥルーエを見つければ良いことだろ?」
「否。既に昇華は始まっている。そしてクリスタルもこの者をルシとすると定めた。」

人知れず昇華するルシを哀れと思うが、今は新たなルシの誕生をどうするか思案した。

朱の魔神がルシとなれば新たな火種となる。敵が内部に、しかも帝政時代と違い兵器と見なされるルシがいるとなると士気に関わる。

この事は元帥に報告し今残る兵士達には口外してはならぬと命令を下し露呈を最小限へしなければならない。

そして、わずか十数年しか生きていない少年へ同情が募る。
ルシになれば老いることもなく使命を全うか死骸となるか死するかまで半永久的に十代のままで時は止まる。その事が憐れと思った。

そして‥

「この者も貴方と同じく感情を欠落していくのか。」

笑いあうことも悲しむこともなくなっていくと言うルシ。
クンミも普段は感情を露にするがふとした拍子に今目の前にいるルシのように何もかも感情が消え失せるときがあった。
僅か十代で人らしい感情がなくなる少年が憐れだった。

「いや‥、」
「ん?」
「この者は‥、違う。」
「どういう事だ?」

否定を口にするルシを怪訝に見やる。

「“忘れる”のだ。これ迄を‥、軌跡を‥」


隠されている筈のその顔は哀れみと慈しみが籠められているようにカトルは感じた。



「‥ここ、は‥」
「?!」

突如聞こえた声に目をやる。

ニンブスの横に横たわる少年は視線をさ迷わせながらゆっくりと上体を起こす。
兵士達は咄嗟に銃口を向ける。カトルも思わず携えた白虎刀へ手を伸ばす。
ニンブスはまだ安定しない少年を支える。
そして少年は周りをキョロキョロと見渡し自分を支える仮面の男に驚くも小さくお辞儀をもって感謝を示し、目の前のカトルをキョトンと見上げた。

「流石は魔神。回復力も化け物並みか。」
「‥」
「貴様の処分は元帥との会議の元に改めて「‥お兄ちゃん、誰?」‥は?」

少年の言葉に此方が驚く。

「ここ、どこ?僕、何でここにいるの?今日はレムと‥あれ?もうひとりだれだっけ?まいっか!いっしょにお花の種をうえる約束してるんだ!でもここ家じゃないし、どこなの?家はどこ?」

キョロキョロと見回した後にカトルへと向けるその眼は、憎悪を向けた眼差しから一転小さな子供が向ける眼差しと同じだった。

「き、貴様!餓鬼のふりすれば良いと思っているのか?!」

それに困惑と朱の魔神に対する憎悪を向ける兵士の一人が怒鳴りながら銃口を向けた。

少年は怒る兵士をキョトンと見上げ何かに気付いた表情を向ける。

「おじさん、昨日街にいた警備隊の人の家族の人?」
「?!」
「あのね?昨日くれたクッキー、レムと一緒に食べたよ!美味しかったからお礼を言いたかったんだ!有り難うって伝えてほしいんだ!」

置かれている状況を意に返さず無邪気に笑う少年に銃口を向ける兵士や周りの兵士、カトルすら驚愕する。

「‥お前、何を?」

訳も解らず絶句すらする大人達にただただ少年はキョトンとするだけ。

「お前は、自分が何と言う名前か何歳か、何処の出身かを言えるか?」

ただ、ニンブスだけが少年に明確な問いかけをした。

「え?うん。僕はマキナ・クナギリって名前。7歳で、朱雀領と白虎領の境にある街に住んでるよ。」
「そうか、マキナか。マキナの住む街には白虎の兵士も来るのか?」
「うん。街は本当に中間にあるから、どっちの領土かずっと決めているんだ。でも去年までは朱雀の兵士さんが警備してくれてて、今年の春から白虎の兵士さん達が警備してくれてるんだ。」


ニンブスが少年から聞き出す情報に兵士達は絶句した。

「お前‥、まさか‥っ!」
「あの街の生き残りだと‥?」


幾人かの兵士は思い至った。そしてカトルすら目を見張る。

十年近く前、突然変異のモルボルの襲撃に遭い、住人達は皆モルボルに喰われ土地すら人の住めない汚染されたものへと変えられ壊滅した国境の街。それは奇しくもこの場にいた白虎兵達が街を骸を燃やしたその場に居合わせたのだった。

そのかつて惨劇が起きたその街の唯一の生き残りが目の前の少年で、その悲劇は彼の中から消えてその数年前の穏やかなけれど緊迫した小競り合いが続いていた頃の記憶しか無くなった少年を目の前にし、件の白虎兵は愕然とした。












**後書き**
唐突に終わったゴメンナサイ‥。

マキナ記憶喪失ネタ書こうとしたらワケわかんなくなっちゃったテヘペロ

どなた様かの小説を読んでて、マキナの0組との亀裂の切っ掛けかなんかはアリアの一件があったからじゃないか?って仰っていて(もう大分前なのでうろ覚え)、その切っ掛けの時に衝撃を受ければ下手したら記憶喪失になるんじゃないか?って思って退行性記憶喪失にしちゃいました。
ある程度はクリスタルも関わってるけど大半はストレスと銃撃によって記憶がぶっ飛んだマキナです。作中にも書いたけど七歳くらい。その頃ならまだモルボル襲撃もない穏やかな日々だったろうと思います。

マキナにクッキーをあげた兵士さんはカロン辺りをイメージしてます。


たぶんこの後ルシでありながら無垢なマキナにカトル達白虎兵が溺愛して白虎優勢で戦争終結させる気。


白虎勢×マキナにしたかったけどワケわかんなくなって打ち切り(´・ω・)<ゴメンナサイ




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ