ゴミ箱
□偶然と必然
1ページ/4ページ
少し疲れた面持ちで帰りの電車に乗る2人。
偶然にも隣同士に座る。お互い面識すらない赤の他人、気にも留めないのは当たり前。
一方はきっちりとスーツを纏い姿勢正しく座り、小説を読んでいる。
もう一方は学生服を着崩し少しガラの悪そうにも見えるが、何故か右目は眼帯によって隠されている。
何の接点も無く相反している様にも見える。
だが…
「……?」
スーツの男は不意に感じた肩への重みにそちらへ目を向ければ、隣に座っている学生が眠っている姿が目に写る。
己の肩に頭を乗せて…
どうしたものか…と思考巡らせるが、退くにも動けずその学生が気持ち良さそうに寝ているものだから特に気にしない事にして、また小説を読み始める。
各駅で少しずつ人も減っていく。
そろそろ着くかと思うも、未だ凭れ寝ているこの学生は何処で降りるのか…
「…っ……」
そんな事を考えていれば思ったより電車が停まった際に横に大きく揺られ、学生が目を覚ます。
肩から頭を退けアナウンスと表示を見て、乗り過ごしていない事が判れば安堵して背凭れに背を預ける。
その時ふと隣の人物に寄り掛かってしまっていたようなと思い、眼帯の学生は隣に目を向ける。
「……」
サラリーマンだろうか…スーツをきっちり着込み姿勢良く何か読んでいる…切れ長で少し冷たさのある目だが無表情ながら、端正な顔立ちで思わず見入る。
「…何か?」
見られている事に気付いたのか、横目でチラリと学生を見て問い掛ける。
「いや…」
「…そうか‥」
つい見惚れていた為フイッと顔を逸らせばそれ以上は何も言えず、少しの沈黙の後スーツの男も短く返すだけで終わる。
「「……」」
暫くしてアナウンスが流れ学生は降りる体勢に入る。
…が、どうにも隣が気になる。
「………あの…」
「……」
意を決して言葉を掛けるとスーツの男は読み物から顔を上げ此方を見る。
「…俺…寄り掛かってましたよね?…スミマセンでした」
「…気にするな‥疲れていたのだろう」
「あ、はい‥バイトで‥」
「そうか…働くのは悪くないが、勉学にもきちんと励むのだぞ」
「はい……じゃあ、俺此処なんで‥さようなら…」
「うむ、気を付けてな」
短い会話の遣り取りをして電車から降りる。
知らぬ内に口許には笑みが溢れていた。
無表情なその顔がほんの僅かだが柔らかくなったのを眼帯の学生は見逃さなかった。
足取り軽く家路につく。
一方スーツの男は学生が降りて再び読み物に視線を落とすが、読む事は出来なかった。
思考が先程の学生へと向けられる。
整った顔には不釣り合いの眼帯…寄り掛かられた事にも驚いたが、話し掛けられた事にはもっと驚いた。
寝顔と己に向けられた視線、別れ際に向けられた笑みを思い出す。
どうかしている…と首を横に振り苦笑を漏らす。
振り払う様に目的の駅で降りればアパートへと帰った。
…それが何気無い2人の出逢い。