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□白の中に佇む
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ああ、まだ来ない。
そう思ってベランダに出たら、君がいた。
‐白の中に佇む‐
「ボリスは出かけたよ」
僕なりに、普通を装って言えたと思う。
実際、ボリスが家を出た理由を知っている訳じゃないから、嘘をついた事にはならない。それに、帰って来ると言った彼を信じるならば、それ以外には言いようが無かった。
ボリスがいなくなってからというもの、僕は毎日ベッドで泣いた。
何でかよくわからないんだ。
別れ際の、ボリスの瞳と表情が忘れられない。傍らにいた女性の事も。
――でもボリスは帰って来るんだ。
だから、我慢しなくちゃいけないのに。
ぽろり ぽろり
良い男が台無しだ。
友達がちょっと出かけたくらいで泣いてちゃ、父様のようにはなれやしない。
「ボリス……」
呟いてみると、寂しさが倍増した。胸の中心にぽっかりと穴が開いたような喪失感。耐えられない、このまま死んでしまうんじゃないだろうか。
そうして眠りについても、起きれば生きていた。死にやしないんだ、そんな事で。
僕はバナナに相談した。
ずっと一緒にいた人が、誰かと一緒に居なくなってしまった。寂しくて、苦しくて、特にその"誰か"を思い出す時、壊れるんじゃないかってくらい頭が痛くなる事は無いか、と。
「ありますよ」
しどろもどろな質問に対し、返答はあまりに簡単な言葉だった。
「まだ成人になる前です。それこそ、ルシアン様と同じくらいの頃」
「それは、どんな時?」
良かった。死ぬ病気では無いんだ。そう思うと、幾分か気が楽になった。
「愛した人と、別れた時です」
思わず硬直した。それは僕と彼に当てはまる筈のない結論だ。
「ルシアン様はその方が大好きなんですね」
ああ、なのに、何故か。
バナナの前で僕はまた涙を流していた。
大好きだなんて、恥ずかしい。つまり、当てはまってしまったんだ。
けれど、そうならば尚更、僕のが想いが成就する事は無い。彼には、彼女がいるのだから。
バナナが優しく僕の頭に手を乗せた。
「絶対に、叶わないんだ」
どうしよう、どうすれば良い?
僕はボリスが好きなんだ。