BM

□その意志を守れ
1ページ/1ページ

「裏切り者は誰だ」
Jが言った。
それを知りたいのはむしろ問われた藤丸の方であったのだが、Jは気にする様子もない。
「次の犠牲者は誰か」
今度こそ、訳が分からない。
やはりテロリストの言葉など、理解しようとするほうが無理なのだろうか。
「何が…」
「面白いよね」
思い切って問い返してみるものの、答える気は無いようだ。
「だから、何がだよ」
「君が、さ」
俺が? またも問い返す藤丸に、Jは小さく笑った。
「裏切り者は君だよ。そしてボクがこれを言った事で、次の犠牲者は君になった」
「…俺が、何かを隠していると?」
震える口唇で問えば、それまで口元だけ笑っていたJが、藤丸を睨むように顔をゆがめた。
「知らないフリというのは、それを知っている者から見れば愚かなものさ」


「どこに行っていたんだ…!」
帰宅すると、遥を頼んでおいた音弥が待っていた。
Jと会うなどとは言わずに出かけたので、怒っているのだろう。
「…ごめん」
「全く…心配したんだぞ…」
――知らないフリというのは…
Jの言葉がフラッシュバックする。
ああ、そうさ。
わかってるよ。
その瞬間、藤丸は言ってしまった。
「心配、なんか…してないんだろ?」
嘘はやめろよ、…。
言ってしまってから、ヤバい、と思った。
音弥が、顔を歪めた。居心地悪そうに指先を動かす。
…ああ、終わった。
そう思った。
「…何を言っているんだ、藤丸」
「もう、いいって言ってるんだ」
「だから、何を…」
俯く藤丸の肩に手を置こうとした音弥を振り払った。
はっきりとした、拒絶。
眠っていた遥が起き出して、リビングの入り口からその様子を見ていた事も知らず、藤丸は静かに言った。
「おまえが、Kなんだろ?」
K。テロリスト。
藤丸の敵。
顔を上げた藤丸の目に映ったのは、音弥の冷めた瞳だった。
もはや隠す気も無い、と…?
「聞く事も無いんだがな…、いつ知った?」
「ずっと前だ。折原マヤが現れるより、もっと前」
藤丸は、すでに親友でも恋人でも無くなった目の前の男を見ながら、弱々しく首を降った。
視線は絡まったままだった。
「…そうか」
じゃあ。
さよなら。
銃声と共に、鷹は空高くから落ちた。


END
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ