Toujours
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□第8話
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虎屋へと戻って来た俺達は薫風が倒れた事情を知らない女将さんに簡単に説明し、そのまま俺は薫風を部屋へと運んだ・・・。
一緒に帰って来た坊、廉造の2人はそれぞれ女将さんやお父に捕まり、今は説教中・・・。
残りの皆は旅館の者に各自部屋に案内され、体を休めておる頃やろう・・・
「・・・薫風、何か欲しいもんあるか?」
俺はベッドに横たわる薫風の傍に椅子を持って来て座って、更に赤く染まっていく頬を撫でた。
坊を捕まえる前に女将さんが着替えさせたので今は寝間着の浴衣姿の薫風。
洋服から浴衣に着替えて少し楽になったんか先程・・・倒れた時よりは気持ち程度息苦しさは和らいでおるように見える・・・
『・・・んっ、今は何も欲しいもんは無いけど・・・無いから、――今は、柔造に傍に居って欲しい・・・』
・・・それでも、息苦しい事に変わりは無く、頬を撫でる俺の手ぇにかかる薫風の吐息は熱い・・・
その俺の手ぇに自身の手を重ねて熱に浮かされた涙の浮かんだ瞳で俺を見上げる薫風・・・。
――ゾクリと欲が背を這った・・・
俺は薫風のその姿に不謹慎だと思いつつもゴクリと息を飲んだ・・・
「――・・・おん。勿論傍に居るよ。せやから、今は眠り?」
その欲に気付かれんようにしながら、重ねられている手の反対の方の手ぇで薫風の頭を優しく撫でる。そうすれば安心したように小さく頷いて目を閉じてくれた
・・・そして、自然と離れていく熱に少し寂しく思う
そんな俺の事を知らん薫風はスー、スー、と寝息を立て始めた
俺はまた、今は眠っておる薫風の頬を撫でた。
・・・何時の間に薫風はこない綺麗になったんやろか?
6つ年下の何よりも大切なこの娘(こ)は・・・
――コンコン・・・
「――はい・・・。」
俺の思考を断ち切らせるかのように突然響いたノック音に軽く肩を震わせた。
「・・・坊・・・。」
「・・・お姉は・・・?」
「・・・今、眠ったとこです。」
「・・・ほーか。」
その後すぐに開かれた戸の陰から現れたのは坊・・・
俺は坊に気付かれんよう薫風の頬に触れておった手ぇを下げた・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・坊・・・?」
「・・・っ・・・」
俺が手を下げたのと入れ替わるように坊が薫風の頬に触れる
それからしばらくの間俺も坊も何も言わへんかった
普段、思った事をすぐに言わはる坊がどこか薫風に触れる事で言うのを躊躇っておるのを誤魔化しておる坊を不思議に思って声を掛ければビクリと驚かれた・・・
「・・・柔造に話さなあかん事があるんや。奥村の事・・・――そしてお姉の事について・・・」
――今、下で話す用意をしておるから・・・
覚悟を決めたように言った坊はそう言ってまた何も言ってくだされへん。
俺は眠る薫風に「すぐ戻るさかい、ちょお待っとってな」と聞こえんと分かっておっても声を掛けてから、坊の方を向いて下(お)りる事についての承諾の意を示すように頷いた
・・・そして、俺は坊と一緒に下に下りる為に部屋を後にした
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