◇ 海賊×利吉
□騙し合い(義利)
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山田利吉・17歳の夏。まだフリーになりたてで、忍者の仕事が殆どなかったころ。
彼は街道沿いのとある茶屋で、ウエイターのアルバイトをしながら日々の糧を得ていた。
「えぇっ?! わっ、私がですか?」
「そ。最近どこも不景気でな。他所と差別化ってのをしないと、茶屋も生き残っていけないんだよ」
ふぅと肩を落とす店主の言わんとすることはわかるけれど。
「でっ、でも……なにも私が、そんなことしなくても……」
「けどな、うちにもうひとり雇うような余裕がないことくらい、お前にだって分かるだろう?」
「それは……」
利吉が使ってもらっている茶屋は、忍術学園から数里と離れていないところにある。わりと人通りの多い場所だが、そのぶん周りに競合店も多く、どちらかといえばみずぼらしいこの店に客が多いとはお世辞にもいえない。
「そういうことで、頼んだぜ。道具はここに置いておくからな」
「えっ? あの、ちょっと……」
要求だけをつきつけると、店主はさっさと行ってしまった。赤い綿布の敷かれた縁台に道具だけが残されている。利吉はがっくりと肩を落とし、それを見ながらため息を漏らす。
新しいアルバイト先を探すのもこのご時世では一苦労だし、手続きだって面倒だ。そんなことに手間を掛けるくらいなら、忍び仕事の請負先を探したい。
なによりこの町は京へ向かう街道に近く、いろんな情報が入ってくる。世情を知るにはもってこいの場所だった。
「仕方ない……か」
自分に言い聞かせるように呟いて、利吉は道具に手を伸ばした。