◇ 雑渡×利吉

□にぎってこすって温めて
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 忍術学園を訪れて中庭を通りかかった利吉は、井戸端で水仕事をしている忍たまを見つけて足を止めた。
 時刻はまだ卯の刻前(午前8時頃)。授業のない休日なのだから、まだのんびり寝ていてもおかしくない刻限なのに。
 サクッ、サクッと歩を進めるたび足下で霜柱が砕ける音に、ふっ…と忍たまが顔を上げた。
 「利吉さん、おはようございます」
 にっこりと親しげに笑いかけてくる。
 「君は、保健委員の伊作くんだね?」
 「はい。利吉さんに名前を覚えていただけてたなんて、光栄です」
 きらきらと眩しげな瞳で見つめられて、少し照れる。
 「それは、紫根?」
 「ええ。毎年この季節になると、しもやけやあかぎれで保健室に来る人も多いので、軟膏を作っておこうと思って」
 にこにこと笑う伊作は、自身の手が真っ赤になっている。
 「伊作くん、手を貸してごらん」
 伊作の手を両手で包む。氷のように冷たくて、珊瑚のように赤い手に顔を近づけると、ほうっ、と白い息で温める。
 「な、わっ、利吉さん…っ」
 手よりも真っ赤になって、わたわたと慌てている伊作に、くすっと笑みがもれる。
 と、そのとき。
 「――利吉くん、利吉くん」
 伊作と利吉以外に誰もいなかったはずの井戸端で呼び掛けられる。
 えっ、と思ってふり返ると、さっきまで伊作が座って居た場所に雑渡がしゃがんでいた。袖を肩まで捲り上げ、紫根を浸けている水桶に肘まで手を浸している。
 いつの間にそこに居たのだろう――というより。
 「えっと…、雑渡さん? そこでなにをなさっているんですか?」
 「なにって、伊作くんの手伝い」
 手伝いと言っているわりに、水に浸かった手は動いていない。
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