GS2 long

□vol.9 デートをねらえ!
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「おい海野、早くしろよ」
「今出ます!」

慌てて扉を開けると、裏口の前で仁王立ちの佐伯くん。
いつものように珊瑚礁の制服のままだった。

「ごめんね、遅くなって」


外に出るとじっとりと空気が湿っていた。

そういえば、明日は雨だって天気予報で言ってたっけ。
そんなことを思い出しながら、佐伯くんを追って階段を足早に下りる。


「そこ暗いから気をつけろよ」
「あ、うん」

佐伯くん、やさしい……。

わたしはこっそりと、小さく気づかれないように笑う。


夏休みが終わって、よくわからないけど佐伯くんに口聞いてもらえなくなって…

そして、学校ってこんなに佐伯くんに会えないとこだったのかと思い知った。

珊瑚礁でバイトするまではこれが当たり前だったはずなのに。
夏休みの間に、わたしはものすごく贅沢者になってたんだ。

だから、またこうやって佐伯くんと一緒に歩けるようになるなんて。

――ホントによかった。


追いついて、上目遣いで佐伯くんを見上げる。

「……何だよ」

佐伯くんが少し瞳を細め、ムスッと不貞腐れた顔をした。

やっぱり一緒に行きたいなぁ。


「遊園地」
「………」
「ね。佐伯くんの都合に合わせるから。行こうよ」


ついに佐伯くんが溜め息混じりに手刀の形にして手を振り上げたので、わたしは「きゃあ」とキュッと目を閉じて身を竦めた。


「何ビビッてんだよ……なあ、俺そんなにチョップしてるか?」
「うん」
「即答かよ」
「だって佐伯くん、すぐわたしにチョップするもん」

佐伯くんの様子を窺いながら答えた。

どうやらチョップするのを止めたらしいので、わたしはホッと緊張を解く。


「ほんと、親衛隊の皆さんがチョップする佐伯くん見たらビックリ――」
「ウルサイ」

言った瞬間、頭にチョップが落ちてきた。
佐伯くんはわざと作った優等生の笑顔を浮かべて、

「海野さん、油断しちゃ駄目だよ?」
「…………」

佐伯くん。
その笑顔、もうわたしには全然爽やかに見えないんですけど。


でも――。

すぐにチョップするけど…
こうやって優等生の顔だけじゃない、意地悪で屈折した一面を見せてもらえるのってやっぱり嬉しいな。


なのに、佐伯くんは笑ったわたしを見て眉を顰め、
「ニヤニヤすんな。キモチワルイ」なんて失礼なことを言ったのは全くの余談。



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