GS2 long

□vol.8 不機嫌な新学期 
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9月5日火曜日。

「なぁなぁ、あかりちゃん。これから帰るん?な、一緒に帰らへん?」

放課後、クリスくんが廊下で部活に向かうわたしに言った。

「ゴメンね。私、今日はクラブがあるんだ」
「えっ。あかりちゃん、何のクラブに入ったん?」

珊瑚礁でのバイトが終わり、急にやることが無くなったわたしは思い切ってクラブに入ることにしたんだ。
  

「手芸部!」
「オンナノコらしくてええなぁ」
「えへへ、ありがとう」

かなり不器用なわたしだけど頑張ってみたい。
そう思わせたのは佐伯くんだった。

なんで佐伯くんの作るケーキはあんなに美味しいんだろう。
お菓子作りはとても真似できそうもないから、せめて裁縫で女の子らしく、ね。

ほんなら〜、とひらひら手を振るクリスくんと別れ、張り切ってわたしは歩き出した。



9月7日木曜日。

強い日差しを遮る大きな樹の下、中庭の芝生の上で。
昼休み、竜子さんとはるひと3人でお弁当を広げていた。

「……アンタ、こぼれてるよ」
「えっ?」

はるひが大きな目をさらに見開いて声を上げる。

「あかり!ソースがスカートについてんで!!」
「わっ!!」

言われてスカートに視線を落とすと、ぽとぽと小さなソースの滴が落ちていた。
いつの間に?!
ああもう、なんてボンヤリなんだろう。

慌てるわたしを見て、竜子さんが可笑しそうにフッと笑った。


「わたし、ちょっと手洗い場に行って来る!」
「あかり!もうすぐ予鈴鳴るし、あたし日直やから先行っとくで!」
「うん!……あ。わたしのお弁当箱おねがいっ!」

わたしは中庭の隅にある水道に着くと、ポケットからハンカチを取り出し水で濡らす。
そして、スカートのソースの点々をとんとん押さえた。
幸いにもスカートの染みは目立たない。


ホッとして水道の蛇口に手を掛け、ふと空を見上げてみる。
キレイな青空。

何気なく視線を彷徨わせていると、屋上に人影が見えた。
わたしの心臓が小さく跳ねる。

見慣れた色素の薄い髪の色。
遠目にでもわたしには自信があった。

彼を間違えるはずもない。
あれは絶対に佐伯くん。

屋上のフェンスにもたれてこっちを見てる?

そして佐伯くんの唇が動いたように見えたんだけど。でもすぐにその人影は屋上から消えてしまっていた。


――何か言ってた?


お昼はいつも女の子達と一緒に食べている佐伯くん。
なのに今は屋上に1人でいたような気がする。
 
まぁ。佐伯くんだって、たまには1人になりたいこともあるよね。 
『あんな煩いヤツらに囲まれて、楽しいわけないだろ』そう言ってたっけ。
 
少し汚れたハンカチを水ですすぎながら、自然と笑みが零れる。


ね。学校では猫を被ってる佐伯くん。
秘密を知ってるわたしに優しくしとかないと喋っちゃうかもよ?
 
本当はそんなつもりなんて微塵も無いけど、心の中で佐伯くんに悪態をついてみる。


不思議なことに。
ハンカチをぎゅっと絞る時には少し気持ちが軽くなっていた。



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