GS2 long
□vol.6 夏の終わり
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フォークを持ったまま俯いてハァと小さくタメ息をつくと、トンとチョップされてムースに鼻をくっつけそうになった。
驚いて慌てて顔を上げると、眉間にシワを寄せた佐伯くんがわたしを見下ろしている。
「なんだよ」
「あ……ううん。わたしって情けないなと思って」
「…………」
「佐伯くんを見習って、今日から宿題頑張ろっと」
自由な時間が少ないはずの佐伯くんを見習わなきゃ。
「佐伯くん、このケーキまた作ってくれてありがとう」
「べつにおまえのためじゃない。試食だ、試食」
「なんでもいい。うれしいから」
口を尖らせる佐伯くんの後ろには、ニコニコとこちらを見ているマスターがいた。
残り少ないバイトだけど、わたしの出来ることを一生懸命やろう。
素人のわたしでも出来ることを探してもっと頑張ろう。
8月24日。
今日もあいかわらず珊瑚礁は忙しい。
「レアチーズはまだ残ってたかな……」
マスターがわざわざカウンターから出て確かめに行こうとするので、わたしは慌てて答えた。
「マスター、ラスト2です」
「そう、ありがとう」
「いえ」
「海野さんが来てくれて助かってます。これからも、お願いしますね」
「はい!残り少ないですけど頑張ります!」
ふふ、マスターに褒められちゃった!
と、佐伯くんと目が合って驚く。
「な、なに?」
「別に」
佐伯くんはフイと顔を背けて、テーブルを片付け始める。
はぁ、驚いた。
また何か失敗したかなって変な汗かいちゃうよ。
その日の帰り道。
いつものように佐伯くんはわたしを家まで送ってくれる。
佐伯くんが両手を上へ、んーと伸ばして大きくタメ息を吐いた。
「お疲れさま。いつもゴメンね」
「おまえさ、宿題は?」
何気ない感じで佐伯くんが唐突に訊ねる。
彼の思い掛けない質問に驚いたけど、わたしは苦笑いを浮かべて正直に答えた。
「うーん……。数学以外は先が見えてきたかなぁ」
「そんなに数学苦手なのかよ」
「うん。高校の数学っていきなり難しくなってない?公式とかいろいろ多過ぎ。活用しきれないよ」
致命的、と佐伯くんが呆れたように笑うから、わたしもつられて笑った。
「えへへ。だからつい眠くなってうたた寝ばっかり」
ハァと佐伯くんがタメ息を小さく吐く。
「わかんないとこあったら持って来いよ。少しくらいなら教えてやるから」
「えっ、ホントに?いいの?!」
「少しだけ、だからな!」
「うん!すっごく助かるよ、佐伯先生」
調子イイやつ、とタメ息交じりで手をチョップの形にして上げたので、わたしはさっと首をすくめて目を閉じた。
――あれ?チョップされない?
「そのかわり」
警戒しながらそっと目を開けると、佐伯くんがムッと不機嫌顔で言葉を続ける。
「今度の日曜。買い物に付き合え。フリマがあるから」
店のディスプレー探しで女もいる方が何かと助かる、と。
「うん。了解」
そんなことならお安い御用だよ。わたしは笑って答えた。
そうだ、と佐伯くんが思い出したように言う。
「おまえ、携帯の番号教えろよ。また迷子になられたとき困る」