GS2 long
□vol.5 恋の花火大会
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(Photo by Natuyumeiro)
「遅い。早くしろよ」
ふと顔を上げると、少し先で不機嫌顔の佐伯くんが待っている。
陽が傾き始め、こちらを振り返っている彼の横顔も、着ている青いTシャツも薄くオレンジ色に染まっていた。
「ゴメンね、遅くって。ほんと、着慣れないものを着ちゃって。すみません」
エヘヘ、と笑いながら汗を拭う。
慣れない下駄は歩きにくく、また浴衣の裾も気になるし、思うように歩けない。
わたしは下駄を鳴らして、なんとか佐伯くんに追いついた。
「……ごめん」
「え……?」
「ま、ゆっくり歩け。おまえ、ボンヤリだから転ぶぞ」
気を遣ってくれているのか、からかっているのか分からない彼の言葉に、ボンヤリは余計だよ、とわたしは膨れた。
佐伯くんは、いつの間にかゆっくりとわたしのペースに合わせ、並んで歩いている。
――あんなに文句言って怒ってたのに、一緒に歩いてくれるんだ。
「佐伯くん、花火大会はホントにいいよ。悪いし」
「もういいよ。マスターの命令は絶対なんだ」
「……ふふふ。やったぁ」
「なんだよ」
自然にこぼれた笑みに、佐伯くんが不思議そうな顔をして、それから眉をひそめた。
「わたし、引越ししてきて初めての花火大会だから実は楽しみだったんだ」
またわたしが笑うと、彼のチョップが飛んできた。
「痛っ」
「どうせじいちゃんの陰謀だろ」
ムッとする佐伯くんに、そんな大袈裟だよ、とわたしは頭を擦りながら答える。
わたしだってさっきまで全然知らなかったんだから。
「わたしなんか、お店が休みなの忘れてたから、絶対、浴衣喫茶の日だと思ったんだから」
プッと笑って佐伯くんが、やっぱりおまえバカ、と意地悪く言った。
「あ、でも……いいな。そうか、来年は水着で……」
「え、何?」
ブツブツ呟く佐伯くんに首を傾げると、彼は慌てて、こっちの話、と答える。
それ、いただきだ、と言いながら変な笑いで誤魔化してる感じがするのは気のせいかな。
駅までの道を、とりとめのない話をしながら佐伯くんと並んで歩く。
いつも珊瑚礁から自宅近くまで送ってもらうけど、こうやって佐伯くんとまだ明るい時間に一緒に歩くのは初めてだった。
そしてわたしは今、あることに気が付き始める。
そうなんだ。
ものすごい視線を感じる。
佐伯くんと並んで歩いていると、彼への視線の多さにわたしは本当に驚いてしまった。
それも男女問わず、すれ違いざまにチラリと見たり、あからさまに振り返る人もいる。ヒソヒソと小声で話したりする女の子達もいる。
そして佐伯くんはといえば、そんなことにはすっかり慣れたものなのか、それらの視線を気にする様子は全く無いみたい。
――スゴイなぁ……。
何気ない格好の佐伯くんなんだけど、オーラが違うというか、とにかく目立つ。
それに――
ホントにカッコいいし。
彼の横を歩くわたしにも視線が注がれているようで、なんだか申し訳ない気持ちになる。
佐伯くんの隣を歩きたい女の子はいっぱいいるのにね。