GS2 long
□vol.3 イタズラな偶然
2ページ/4ページ
カランカランと心地いい音色のベルが鳴り、フワッと珈琲のいい香りが漂ってきた。
「いらっしゃいませ。喫茶珊瑚礁へようこそ」
そしてすぐに、爽やかな若い男性の声がわたしを出迎えてくれる。
「1名様でよろしいですか?御席へご案内いたします」
「いえ、わたし、アルバイトの……」
わたしの前へ来て、にこやかに告げるウェイターにそう言いかけて、わたしは固まってしまった。
――さ……佐伯くん?
まさか……ね。でもすっごく似ている。
「1名様でよろしいですか?」
丁寧ながらも、今度は少し語調を強めて訊いてくる、この人は……。
やっぱり似ている。ホントに、佐伯くんそっくりなんだ。
「あの……わたし、今日からバイトでこちらに――」
わたしがおずおずと話すのを途中で遮り、そのウェイターは見覚えのある、極上の笑みを浮かべてサラリと告げた。
「お客様、ちょっとツラ貸し――いえ、よろしいですか?」
店の外を指し示した彼に従い、わたしはおとなしく店の外へと出て行く。
彼の顔からは先ほどまでの営業スマイルが消え、みるみる不機嫌なものに変わっていった。まるで昨日の佐伯くんを見ているようだ。
そして、煩わしそうにわたしに言う。
「おまえ、昨日といい今日といい……。なんなんだよ!」
「え……」
「なんで店に来た」
「も、もしかして……、ホントに佐伯くん?」
「はぁ?」
彼は、わたしの言葉にとても驚いたのか、目を丸くした。
昨日といいって……てことは、やっぱり佐伯くんなんだよね?
「え?な、なんで?ええーっ?!佐伯くん?!」
「……おまえ、ほんとにわかってなかったのかよ」
目の前の彼、つまり佐伯くんは、呆れたように深くタメ息を吐いた。そして、不機嫌というか怒っている口調でわたしに訊いてきた。
「おまえさ、入学式の朝、道に迷ったって言ってたよな?」
「うん、そう……って、ええーーー!もしかしてあの地図書いてくれたのって佐伯くん?!」
急に目の前がパッと明るくなったような、霧がはれて視界がクリアになったような感じ?
わたしは今、スカッと気分が晴れて、さっぱりした気持ちになっている。
ああ、そうだったんだ。昨日の佐伯くんの言葉が今ならわかる気がする。
でも、佐伯くんは脱力して頭を抱え込んでいるようで、何も言わず黙っている。
「あの時の感じ悪い……いえ、お世話になったのは佐伯くんだったんだ。ゴメンね、全然気づかなかった。わたし、お恥ずかしいことにコンタクトを落として、よく見えてなかったし。あの時はありが――」
「……ウルサイ」
黙って何か考えていたような佐伯くんが、短く言ってわたしの言葉を遮った。
「もういい。おまえがボンヤリなのは、よくわかった」
「ぼっ、ぼんやり?」
「この3ヶ月間、気にしてた俺って……ハア」
よくわからないけど、佐伯くんはがっくりと肩を落としながら、片手で目を覆っている。そして、ブツブツと何か独り言を言ってるみたい。
そして、今さらだけどわたしは、目の前に立つ佐伯くんのウェイター姿にちょっと感動してしまう。
この格好の彼は普段より大人びて見えて、とてもわたしと同い年には思えない。
――佐伯くん、かっこいい……。