GS2 long
□vol.2 悪夢の7月19日 後編
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「オッス、あかり!オマエ、今日早いじゃん」
思わぬハリーの登場に、佐伯くんも一瞬でピキッと固まってしまったようだった。
「ま、そういうオレ様も……え?……な、なんだぁ?」
ハリーは何となく異様な空気を感じ取ったのか、わたしと佐伯くんをキョロキョロと交互に見る。
そしてハッとしたような顔をして、ヤベェ、と気まずそうに呟いた。
「へへ。……悪ィ」
ハリーは顔を少し引きつらせ、マジで悪ィ、と言いながらゆっくりと踵を返していく。
あ、ハリーが行っちゃう。
わたしは咄嗟にハリーに声を掛けた。
「待って、ハリー!」
振り返ったハリーは、わたしの縋るような目を見て驚き、おもわず立ち止まったようだった。
それからハリーは、わたしが胸の前で握り締めている包みに目を遣り、ニッと笑って言う。
「あかり、それ佐伯に渡すんだろ?」
でも、もうわたしにはそんな勇気の欠片、これっぽっちも残っていないんだ、ハリー。
「これは……」
「俺はいらない」
きっぱりと言い切った佐伯くんの眉間に出来たきれいなシワを見ながら、もういいよ、と呟く。
よく頑張った、わたし。
自分で自分を褒めてあげたい。これ以上、ここにいたら泣いてしまう。それだけは絶対にしたくない。そう強く思った。
もう無理。
「ご、ごめんね。迷惑なことして……」
必死に声を出して言ったわたしは、彼に背を向けて走り出していた。
その弾みに、持っていたプレゼントを落としてしまったけど、拾うために足を止めるのも嫌だった。
もういい。一刻も早くこの場を離れたい。
佐伯くんの前から消えてしまいたい。
「おい、あかりっ!」
後ろから、わたしを呼ぶハリーの大きな声が聞こえたけど、振り向かないでそのまま校舎に入り、屋上まで一気に駆け上がった。
ハアハアと息をして、背中で扉を押さえて閉めた。
そして、ずるずると扉にもたれたまま、わたしはぐったりと地面に座り込む。
何だったの、いったい。
わたしは佐伯くんに誕生日プレゼントを渡したかっただけで。
彼と話するのは、今日が初めてで。
どう考えてもわからない。
初めて見た、っていうか、わたしだけじゃないの?佐伯くんの不機嫌な顔。眉間のシワ。冷たい目。
信じたくない。
「でも、ホントなんだよねー」
溢れてくる涙を落とさないように、空を仰ぐ。
やっぱり、空は真っ青だった。