GS2 long
□vol.2 悪夢の7月19日 後編
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本当に思い掛けないことだったので、わたしはポカンと口を開けて、本当にバカみたいな顔をしていたにちがいない。
そして、あとから考えてみたら、彼がなぜわたしの名前を知っていたのか不可解なことだったのに、その時のわたしは奇怪しいとも何も思わなかった。
ちょっと、と言いながらあっちの方向を指差す佐伯くん。
「みんな、ごめんね。ちょっと彼女に用があるんだ」
途端に、一斉に上がる女の子達の抗議の声。
「ええー!」
「ズルイ〜!」
ごめんなさい、ごめんなさい。わたしもワケがわからないのです。
今まで3ヶ月間、ずっと見てるだけだった憧れの佐伯くんが、わたしに話しかけてくれているなんて。
もうわたし、このまま死んじゃってもいい……いや、死んじゃったらプレゼント渡せないよ。
背中に恨みがましい、痛い視線を感じながら、スタスタと歩いていく佐伯くんの後を行く。
昇降口からも死角になるこの場所に着いたとき、佐伯くんはくるりとわたしに向き直った。
ここでいいか、と短く言い、その言葉と一緒にタメ息を吐き出す。
そして、突然佐伯くんは綺麗な顔を歪ませ、あからさまに不機嫌顔で煩わしそうに言った。
「で?」
「え?」
「で?おまえ、何企んでんだよ」
え……?企む?
わたしは、急にトーンの落ちた彼の声に戸惑い、言われていることもよくわからず狼狽える。
さっきまであんなに爽やかに笑っていたはずなのに、目の前の佐伯くんの表情は別人のもので、なぜこんなに急変してしまったのか、わたしには全く理解できない。
佐伯くんはそんなわたしにはお構いなしで、じろりとこちらを睨みながら、また続けて言う。
「今頃になってさ」
わたし、人違いをされているんだろうか。佐伯くんと話すのは、これが初めてだ。
「あ、あの……、佐伯くん、人違い…じゃないかな?」
「はあ?おまえさ、――」
わたしの言葉に、眉を吊り上げてさらに睨む佐伯くん。わたしは凍りついてしまった。
もうダメ……。
そう思った瞬間、
聞きなれた大きな声がわたしの耳に飛び込んできた。