GS2 long

□vol.9 デートをねらえ!
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優しいマリンライトの明かり。
流れているのはマスターお気に入りのジャズ。

それぞれ穏やかな時間を楽しんでいるお客様たち。


いつもの珊瑚礁のいつもの風景。


「お待たせしました。珊瑚礁ブレンドです」




(Photo by Natuyumeiro)



マスターはコーヒーを淹れるのに忙しい。

珊瑚礁は遅くまで開いてるから、夕食後でも立ち寄るお客様が割と多い。
今日は9時を過ぎても人が途切れなかった。

わたしはさっきからずっとシンクの前で洗い物担当になっている。

カップを洗いながら、チラリと佐伯くんの様子を窺う。
カップにはアンティークのものもあるから、すごく丁寧に洗いながら。

フロアでは佐伯くんが一人で接客をこなしていた。


エプロンのポケットを水気の少し残った手でそっと押さえ、その存在を確認する。
カサリと小さな音が聞こえてわたしはまた口元が緩んだ。


ポケットの中には遊園地の招待チケットが2枚。
常連客の入江さんが、「彼をデートに誘いなよ」なんて余計な一言を添えて、わたしにプレゼントしてくれたんだ。

彼ねぇ。
彼、と言われてもなぁ。

わたしには彼氏なんかいないんですけど。

なのに、自然に佐伯くんの顔が浮かんできて慌ててわたしは頭を振った。


無理無理無理!
やっぱり無理でしょ。
絶対断られるに決まってるよ。

………でも。

でも、遊園地が嫌いな人はいない…よね?
たぶん。

うん。きっと佐伯くんだって!



「ね、ね。佐伯くん」

背伸びをして、カウンター越しに佐伯くんに声を掛けた。

「何」

いきなり眉間にシワを寄せられてしまい、ちょっと気持ちがくじけそうになる。

「あー…えーっと」
「だから何だよ。さっさと言えって」

頑張れわたし。
佐伯くんと楽しい遊園地デートのために!


「あのね、入江さんに遊園地のチケット貰ったんだ」
「ふーん」
「でね。あの…佐伯くん、今度の日曜空いてる?一緒にーー」
「行かない」

うわぁ即答……。
あっけなく撃沈。


「えー、返事するの早いよ。もうちょっと考えてみてよー」
「考えても無理。忙しい。ものすごく」
「でも日曜日は珊瑚礁お休みでしょ?」
「休みだからって、俺は暇なわけじゃないの」
「そっか……」
「休みだからやりたいことが山ほどあるんだ」


うう。やっぱりダメか。

粘ってみたけれど、わたしの「遊園地デート計画」は空振りに終わった。



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