GS2 long
□vol.6 夏の終わり
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佐伯くんが笑顔で言う。
『これ、おまえに。誕生日プレゼント』
『ありがとう!佐伯くん』
わたしはカピバラの指輪を嬉しそうに見つめる。
――んん?指輪?
『ほーら。おまえの愉快な仲間たちだぞ』
突然。
その指輪からたくさんのカピバラが飛び出してきて!!
ハハハ、と意地悪な顔で笑う佐伯くんの後ろでは魔女のような格好をした女の人が立っていて……。
――ああっ!カピバラの夜店の人!!
(Photo by Natuyumeiro)
ガバッと跳び起き、夢だったことにホッとしつつ苦笑した。
またなんてヘンテコな夢……。
先週の日曜日の花火大会で、佐伯くんはわたしにカピバラのぬいぐるみをくれた。
『1ヶ月遅れの誕生日プレゼント』だって。
そっと枕元のカピバラさんを抱きしめて朝からニヤニヤする。
入手ルートはとっても怪しいモノなんだけど、佐伯くんからもらったってことだけで喜んでいるわたしは単純だ。
ふとカレンダーを見る。
あの花火大会からもう10日も経ったんだ。
夏休みも残り2週間。
そして珊瑚礁でのバイトもあと2週間……か。
「ああーっ!!忘れてた……」
は?!とキッチンに向かう佐伯くんがパッと振り返った。
いつも休憩時間にマスターの作る軽食とデザートまで頂いているわたし。
全部なんでも美味しくて、1時間近くのんびり味わってしまう……。
「特に苦手な数学の宿題は放ってたから……」
「……で、休憩時間に宿題やるからケーキは要らないって?」
「うん……」
急に憮然とした表情をした佐伯くんは、不機嫌そうな声で言う。
「ふーん。ま、別にいいけど」
「ご、ゴメンね?」
機嫌を損ねちゃったかな、と佐伯くんの様子をうかがいながら謝る。
佐伯くんはムッとしたような表情から今度は意地悪そうな顔になって言った。
「へえ、今日はおまえがかなり気に入ってたやつなのに」
「えっ?もしかして、チョコとオレンジムースの?!」
正解、と言って佐伯くんがニヤリと笑う。
そんな〜!
あの甘いチョコムースと爽やかオレンジムースのケーキはもう1個食べたいくらい(貰えるものならまだ幾つでも食べる自信はあった!)、酸味が絶妙で美味しくって。
また食べたいですって厚かましくリクエストしちゃったくらいお気に入りのケーキ!
後で佐伯くんが作ったケーキだって聞いてホントに驚いて感心したんだけど。
「ザンネーン。ま、宿題頑張って」
「…………」
「そんじゃ」
「……やっぱり食べる!食べさせて下さい〜」
佐伯くんが一瞬勝ち誇ったように笑った気がしたんだけど、気のせい?
「美味しい!やっぱり美味しいよー」
もういいや、宿題。
残りの土日と夜中に頑張るしかないよね。
だって食べたいもん、佐伯くんのケーキ。
黙って食え、と佐伯くんのチョップが飛んできても今は気にしない。
美味しいケーキを食べながら、多分わたしは満面に笑みを浮かべてるはず。
「そんなに残ってんのかよ、宿題」
「えへへ。佐伯くんは?もう終わったの?」
「まぁな。あと数学が少し残ってる」
「ええっ!すごいね……」
佐伯くんはわたしよりもずっとたくさん珊瑚礁で働いてるのにちゃんと宿題やってるんだ。
たしか、期末テストの順位も5番だったし。
両親との約束を守って、ちゃんと仕事と勉強を両立させてるんだね。えらいなぁ。
なんだか恥ずかしいな、わたし……。