GS2 long

□vol.4 ドッキドキな夏休み
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カランカラン……。

来客を知らせるベルが鳴る。カウンターから入り口を振り返り、さっと人数を確認した。

まだぎこちない手つきで人数分のグラスに水を淹れ、トレイにのせてテーブルへと向かう。

――にっこり笑顔と明るい声で。


「いらっしゃいませ。喫茶珊瑚礁へようこそ」



(Photo by Natuyumeiro)


ボコッという鈍い音とともに、頭に衝撃が落ちてきた。

「痛っ」
「ボケッとすんな」

頭を擦りながら後ろを振り返り見上げると、そこにはトレイを持ってジロリとわたしを見下ろす佐伯くん。
……うぅ、今、トレイで叩いたの?

「席に案内したら、次はすぐにオーダー取りに行けよ。一仕事終えました〜、みたいに何くつろいでんだか」
「え……、あの、女性客だから……」
「は?!」

わたしが答えると、佐伯くんはみるみる眉間にしわを寄せ、顔をしかめてしまった。

――ギャー、また佐伯くんを怒らせたみたい!
 

「おまえさ……、男の客じゃなきゃ行かないのか」
「ち、違う!違います!だって……、あそこは佐伯くんが行ったほうが……」
「海野さん。オーダー、早く行ってください」

急にわたしに営業スマイルを見せて告げる彼の目は全然笑っていない。

――佐伯くん、怖いよ……。

また叩かれる、と思ったわたしは、慌ててトレイを持って女性客のテーブルへと向かった。

と、背後から聞こえてきた声に、わたしはしゅんとなる。

「雇うんなら男がよかったのに」
 
ハァとタメ息とともに吐き捨てるように、心底嫌そうな彼の声に傷ついてしまった。


――わたし、頑張ってもダメなのかな。


沈んだ気持ちでテーブルへ向かったわたしを待っていたのは、女性客達のガッカリした表情と、彼に来て欲しかったのに、という抗議の目。

やっぱり。……だから、佐伯くんに行って欲しかったのに。
カッコいい佐伯くんがオーダーとりに行くのを待ってるみたいだったんだもん。

珊瑚礁の女性客って、ほとんどが佐伯くん目当てじゃないの?……モテモテだよ。


「今は店も落ち着いているし。海野さん、少し休憩しましょうか」

マスターはそう言って、カウンターの方へ手招きする。
どうぞ、と言われてそこに座ると、ちょうどテーブルで接客中の佐伯くんの姿が視界に入る。

「はい」
「え!いいんですか?!」

目の前に小さなチョコレートケーキが置かれ、わたしは嬉しくなって声をあげた。


 
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