GS2 long
□vol.3 イタズラな偶然
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新しいバイト先への道順を確認するため、もらった地図を眺めていて違和感を覚えた。
――似てるなぁ……。
なんとなく思ったことが確信に変わるのは、その15分後のこと。
(Photo by Natuyumeiro)
ピピピピピ………
ゆっくりと手を伸ばして目覚ましのスイッチを止める。
忘れようと思っていても、やっぱりというか、昨日の佐伯くんとの出来事が頭にこびりついて離れなくて。
そのせいでまた寝付きが悪かったわたしは、起き上がってもしばらくぼーっとしていた。
大きく伸びをしながらベッドの横のカーテンを開けてみると、今日も見事に真っ青な空が広がっている。
「天気いいー」
今日、7月20日は夏休み初日。
そして、わたしの新しいバイトの初日でもある。今日から心機一転して、この夏わたしはバイトに励むんだ!
「佐伯くんのことなんかもう忘れるんだから」
入学してからずっと好きだった佐伯くん。こんなことになるなら、そっと見ているだけにしておけばよかった。
誕生日おめでとう、って言いたかったのに……。
チクリと小さく胸が痛んだけど、わたしは支度を済ませて、新しいバイト先へと急いだ。
店長からもらった地図を頼りに自宅から15分ほど歩き、ようやく辿り着いた先でわたしは唖然としてしまう。
――なんか見覚えある……。
羽ヶ崎の海に望んだその建物は、 白い壁で可愛らしく、テラスもあるようだ。頬に吹きつける潮風が気持ちいい。
こんな周りの景色、海を眺めながらお茶できるなんて、すごく贅沢だと思う。
どうやら、ここが喫茶『珊瑚礁』らしい。予想以上の素敵なお店にわたしは嬉しくなった。
でもここって、入学式の朝、わたしが迷子になって辿り着いたところに似ているよね……。
あの日、引越ししてきたばかりとはいえ、この歳になって散歩中に家の近所で迷子になっただなんて、恥ずかしくて親にも友だちにも言ってない。
途中、コンタクトレンズを片方落としてしまうし、散々な朝だった。
感じの悪い店員が書いてくれた地図のおかげで、なんとか入学式には間に合ったんだけど。
――似てるんじゃなくて、ここでしょ?
あの時、片方のコンタクトだけのわたしの視界はぼやけていてクリアじゃなかったけど、きっと、ううん、絶対この店だ。
こんなにも特徴ある建物がそうあるわけがない。
「やだな……」
うう、どうしよう。
わたしは珊瑚礁の木製のドアの前で考え込んでしまった。
紹介してもらった新しいバイト先が、まさか、わたしにとって因縁のお店だったなんて。ホントになんて偶然なんだろう。
店の雰囲気はすごく素敵。店長も、こちらのマスターはすごくいい方だって言ってたし、バイトは今日からってことになっている。
仕方ないよね……。
諦めよう。あの人、いなかったらいいんだけどなぁ。
わたしは躊躇う気持ちを振り切って、ドアを押した。