GS2 long
□vol.2 悪夢の7月19日 後編
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『オマエ、ナニタクランデンダヨ』
あの時、確かにそう言われた。
そして言ったのは紛れも無く、
目の前の佐伯くん、だった。
(Photo by Natuyumeiro)
朝から熱気がすごい。
強い日差しに目を細めながら空を仰いだ。緊張のせいかなかなか寝付けなかった、寝不足のわたしの目には眩しすぎる。
真っ青な空が広がった7月19日。
わたしはいつもの海岸沿いの通学路を少し急ぎ足で歩く。
今朝は普段より30分も前に家を出たのに、それでも少しでも早く学校に着きたくて気持ちばかり焦ってしまう。
一旦立ち止ってから、無理やり落ち着かせるように小さく息を吸って吐いて、呼吸を整える。
大丈夫。彼のいつもの登校時間にはまだ間に合う。
今日は憧れの佐伯くんの誕生日なんだ。
お隣の遊君に教えてもらってから(小学生の遊くんは、どうやって情報収集しているのか何度訊いても教えてくれない!)、あちこちショップを回ってやっと決めたプレゼント。
……喜んでもらえるといいな。
でもまずその前に、ちゃんと佐伯くんに渡せるかが問題で。
今日に備えて何度も頭の中で巡らせた、彼との会話シミュレーション。
うーん、大丈夫なはずなんだけど……。
やっと見えてきた羽ヶ崎学園の校門に近づくわたしの目に飛び込んできたのは、白衣を着た……担任の若王子先生だ。
今日は早いので、普段わたしが登校してくる予鈴近い時間帯に校門に待機している、風紀委員の氷上くん達の姿はまだ無い。
「若王子先生、おはようございます」
「海野さん、おはよう。やや、今日は早いですね」
先生はそう言ってにっこり笑って下さった。
その笑顔で、わたしは今日頑張れそうです。ありがとう、先生。
わたしが少し口元を緩ませながら校門を過ぎるとき、前の方から賑やかな女の子達の声が聞こえてきた。
まさか……。
ハッとして、少し先の賑やかな集団に目を遣ったわたしは驚いてしまった。
昇降口の左手前の方で女の子達に囲まれているのは……。
――やっぱり佐伯くん!
ええ?!わたし、これでも30分も早く家を出てきたんだけど。
すっかり出遅れてる?!
いきなり、何度も繰り返したシミュレーションの出だしから躓いてしまったわたしは、軽くパニックに陥ってしまう。
「佐伯君、おめでとう!」
「佐伯く〜ん、これ受け取ってー」
「ああー、私も〜」
うう……、どうしよう。
わたしも頑張って、声を掛けて、プレゼント渡して……。
とにかく、佐伯くんとクラスの違うわたしには、チャンスは今しかない。
「佐伯くん!!」
思った以上に大きな声を出してしまっていて、自分でもビックリしてしまう。
でも次の瞬間、わたしはもっと驚いてしまった。
佐伯くんを囲んでいた彼女達が、一斉に振り返ってわたしを見ていたから。
――わっ、どうしよう
えっと、声を掛けてから次はどうするんだっけ。焦るわたしは、うまく言葉が出てこない。
「あ、あの……わたし。えっと……」
彼へのプレゼントを握り締め、どんどん俯いてしまうわたし。緊張で手が震える。
とその時。
「海野さん」
ぱっと跳ねるように顔を上げたわたしが見たのは、(一瞬、彼は片頬を引きつらせたような気がしたんだけど)女の子達の真ん中にいる佐伯くんの笑顔。
それは、明らかにわたしの方を向いていて。
「ちょっと、いいかな」
極上の笑みを浮かべた佐伯くんが、少し首を傾けてわたしに言った。
「えっ、わ、わたし?」
心臓が……跳ねた。