GS2 long
□vol.1 悪夢の7月19日 前編
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(Photo by Natuyumeiro)
今、予鈴のチャイムが鳴った。
もうそろそろ教室に行かないと、授業に間に合わなくなってしまう。
わたしは意を決して、篭ってたトイレを飛び出し、とにかく早足で廊下を歩く。やっぱりコソコソと何か囁かれている。
わたし、75日間も耐えられるかな…。
そうして、なんとか教室に辿りついたわたしは、戸を開けた途端、今度はクラスメイトの西本はるひの大音量ボイスに迎えられてしまった。
「あかりー!あんた、佐伯に告ったってほんまなん?!」
その大声にクラス中が皆一斉に振り返って、わたしを見つめている。
あぁ、ここでも…。わたしはガックリと肩を落としてしまった。
「ち、ちょっと、西本さん。声が大きいですよ!」
横から慌ててはるひを制してくれているのは、同じくクラスメイトの小野田千代美ちゃん。
彼女は生徒会執行部に所属している、とっても真面目な性格の持ち主。ビシッと厳しいことも言うけれど、彼女の言葉は頷けるものが多い。
小柄でメガネが特徴の可愛らしい女の子なんだ。
そんな千代美ちゃんのお咎めなんか御構い無しに、はるひは喋りまくる。
「アホやなぁ。なんでそんな無茶なことを。しかもあんた、校門で告ったって。人目につくとこでまた…。ほんまにアホやなー」
いつもの調子ではるひの口から飛び出す言葉も、今のわたしにはズキズキと胸にこたえてしまう。
大阪弁のおしゃべりでいつも周りを明るくしてくれる、おしゃれとお菓子が大好きなはるひ。
彼女に悪気が無いのはわかってるけど…。
――うう…、そんなこと今言わなくたって
自分に向けられている、涙目のわたしの視線に気づいた親友は、慌てて顔の前で手を振りながら弁解し始めた。
「ゴメンて!あたし、バカにしてるんとちゃうねんで!あんたみたいに可愛い子やったら、もっとこう…作戦っちゅーか…。ほんなら、うまくいったんちゃうかなぁって思って」
「私もそう思いました。海野さんみたいに可愛い女性だったら…」
「ちょ、ちょっと千代美ちゃんまで!」
そんな風に言ってふたりに慰められると、なんだかすごく照れちゃうよ。
「あかり。あんたなぁ、もっとジブンの魅力を自覚せなあかんで」
「み、魅力〜?」
そうやでー、と腕組みしてわたしを見ながら、うんうんと頷くはるひ。
「あ、あのね、ふたりとも落ち着いて聞いて」
ますます恥ずかしくなったわたしは、不自然に大きな声を出してしまう。
「実はわたし、告白なんかしてないんだよ。…ただ、佐伯くんに誕生日プレゼントを渡そうとしてただけ」
すると、目の前のふたりはものすごく驚いた顔をしてわたしを見つめた。
「えっ、ほんまに?プリンスに告ったんとちゃうのん?」
「本当ですか?じゃあ、一体どういうことなんですか」
わたしだって、どういうことだか知りたいよ。
目を丸くしているふたりを前にして、わたしはただ苦笑いを浮かべる。
…そう、佐伯くんはプリンスなんだ。
こんな何のとりえも無いわたしには高嶺の花だってわかってたけど…。
わかってたけど、憧れてたんだもん。
好きになったんだもん。