『朝霞小話』…おわりの空は青白銀の誓い…

□序章〜創世神話の文学講座〜
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【序章〜創世神話の文学講座〜】


―――それはまだ、人の感性が今より敏感で、住む土地の境もなく人界と異界の境もなく、
魑魅魍魎が拔扈していた混沌とした時代。
 
 一人の若者が旅に出る。

 行く先々で怪かしを払いのけ、人の心安らかなる暮しを胸の奥に思い抱きながら、
終わるあてのない旅路を進んだ。

 いつ頃からだろうか?

 どこからともなく彼を見ていた八人の仙が集い始める。
藍仙、紅仙、碧仙、黄仙、白仙、黒仙、茶仙、紫仙―――。
名に色の意を持つ彼らはいつしか彩八仙と呼ばれ、
人には無い力を使い、また叡智を与え若者を助けた。

 若者の姓は蒼、名は玄。

 人の世の闇夜に光を差し込ませ、国という形を築いた彩雲国初代国王『蒼玄』その人である。

 蒼玄の死後、いつの間にか仙は誰一人気付くことなく姿を消していった。
 だが、蒼玄が彼ら仙のために建てた雅びな宮は、仙人の住む――仙洞宮と呼ばれ、今も宮城の一角にあると言われている―――。



―――「が、『あると言われている』でなく実際にある。原則、関係者以外立ち入り禁止だが、あってない原則だ。まぁ、イワク付きな場所でもあるから、物好きでなければ、行かない所でもあるな。
文学的にこの創世神話には、物語の世界に現実にあるものを加える事によって、より話を読み手に近い存在として感じさせる手法が使われている。」

―――彩雲国、王都『貴陽』。
宮城のさらに奥、後宮の大講堂のある殿舎で文学の講義が開かれている。
 何故、後宮で学問の講義が開かれているのか?
答えはいたって簡単である。
 半年前に即位した王が、
『馬鹿は相手にしない。』
と、言ったとか言わなかったとか。
 そんな噂が流れ流れて、後宮ではいつの間にか小さな勉強会が開かれる様になり、
月が新月から満月に至りそしてまた新月になったころ、
後宮内学舎が事実上、設立されてしまっていた。
 今では、講義・演習を含めて100もの講座がある。
 言ったのかどうかよくわからない王の言葉の噂がたってから、たった4ヶ月間の事である。

「ちょっと秀麗、ココ教えてよっ。」
 列席する女人たちの中央より少し左側の席で、
声を殺しながら隣りの女人に話かける人物がいた。
「私、次の霄太師の講座で絶対指名される気がするの。ねっ、お願い助けて。」
 彼女が必死に頼み込んでいる女人の名は『秀麗』という。姓は『紅』。
そう、大貴族彩七家の筆頭藍家に次ぐ紅家のいわば、姫である。が、―――。

「うっさいわねーっ!!桔璃っ!!私は絳攸様の講義を聞いているの。静かにしてよっ!!」
「ひどいぃ〜。秀麗は私が霄太師にイジメられてしまう事より、絳攸様の講義を選ぶのぉ〜?いけづぅ〜。」
 ちなみに、霄太師とは、朝廷百官の上の位に就いている三師の一人である。
前王時代には名宰相とうたわれ、数々の功績を残した官吏で、今は実務を退き相談役になっている。
人となりは………。

―――話を戻すとしよう。

 上目使いで口許を尖らせていた桔璃の顔はちょっと可愛かったりもしたが、秀麗は我に返った。
「何当たり前な事言ってるのよ。絳攸様は6年前16歳の若さで国試状元及第された方よ。だいたぃ…‥」
 どーも、紅姓を持ってはいるが、深窓の姫君ではない様である。

 と、その時―――。
 桔璃は頭に軽い衝撃を感じ瞬間、髪がはらりと解け落ちた―――。




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