10/10の日記

14:48
そんな貴方が・保護者
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「右目の旦那は有った方と無かった方ならさ、どっちが良いと思う?」

「•••話の脈絡が見えないんだが」

「あぁ、ごめんごめん•••思ったことつい口にしちゃった」

「•••何を考えていたんだ猿飛?」

「ん〜?ちょっと昔のことを、ね?」

「昔•••?」

「そ!俺様が忍と呼ぶにはまだまだな、ぴっちぴちの時のことを思い出していたんだ」

(ぴっちぴちな猿飛か•••少し見てみたい気がしないでもないな)

「そしたらさ、急に真田の旦那•••当時は弁丸様だった幼い旦那と出会っていなかったら、そもそも武田の忍ですらなかったら俺様どうしていたのかなぁ•••って思っちゃって」

「ほう•••」

「右目の旦那は考えたことない?もし自分が竜の旦那に•••伊達に、縁が無かったらどうなってたんだろうって」

「•••それは何度も考えたな」

「え?そうなの?意外•••右目の旦那のことだから『政宗様以外に仕えるわけがねえだろうが!』なんて言うかと思ってた」

「今ならそう言うがな•••政宗様をまだ梵天と呼んでいた頃は、よく考えたな」

「あぁ•••そう言えばそんな風に呼んでたんだっけ?当時の竜の旦那」

「そうだ•••って、知ったような口振りだな」

「まぁね〜実際に俺様が聴いたわけじゃないけど、旦那•••弁丸様がよく話してくれたからさぁ•••聞きたい?」

「遠慮しておく」

「え〜なんで?面白いのになぁ」

「てめえの面白いは俺にとってそうでもない話だからな•••それに」

「ん?」

「•••そんな腑抜けた面を見てる方が俺は面白い」

「ちょ•••腑抜けたって酷くない?素直に好みの顔って言えば良いのに」

「俺の好みは顔と言うよりてめえの表情だ」

「•••?どっちも一緒じゃないの、それ?」

「まぁ、確かに明確な違いはないがな」

「はは、なにそれ?やっぱり俺様の顔が•••」

「お前の笑った表情が好きなんだ」

「•••え」

「真田を叱る時、甲斐の虎に無茶を言われたと愚痴を溢す時、政宗様に食ってかかる時、忍具を手入れしている時、楽しそうに誰かと談笑している時•••」

(は?え?ちょっと待って?話の流れがなんか変わってない?右目の旦那が珍しく饒舌で俺様口を挟めないんですけど!?っていうか知らない内によく観察されてる!?)

「どれも見ていて飽きないが•••俺の目を見て笑っているお前が1番好きだな」

「•••ふ〜ん」

「これこそ今だから言うが•••最初は政宗様の仇となるお前を目の敵にしていた俺が、こうなるとは我ながら思ってなかった」

「あぁ•••それはお互い様じゃない?」

「•••と言うと?」

「俺様だって最初、右目の旦那のこと良くは思ってなかったよ?•••独眼竜だけでも厄介なのに、また面倒な人が出て来たなぁ•••って」

「ほう」

「•••あれ?嫌な顔1つしないんだ?」

「何故だ?」

「な、何故って•••面倒と言われたら腹が立たない?」

「なら聞くが、お前は俺の発言に腹が立ったのか?」

「へ?いや、立ってないけど•••」

「そういうことだ」

「•••??」

「お前の言葉を借りるなら政宗様に•••伊達にとって厄介になる忍を面倒と思っても、猿飛佐助という人物に対して悪く思っていない」

「!」

「•••お前は違うのか?」

(あ〜•••なるほどね、だから俺様も腹が立たないし右目の旦那も眉ひとつ動かなかったんだ)

「猿飛?」

「•••へへ、右目の旦那と同じ気持ちってわかってちょっぴりびっくりしちゃった」

「そうなのか?」

「うん」

「•••ならもう1つ、言っておこうか」

「え?なになに?」

「俺は、お前との出会いを無かった方が良いなんて思わない」

「•••へ?」

「時代や立場を鑑みた上で客観的に見れば、無い方が良いと言われるに違いないだろうが•••それでも、良くも悪くも今の俺が在るのはお前のおかげでもある」

(良くも悪くも今の自分が在る、か•••)

「•••当時、梵天丸のことを考えれば俺よりも相応しい者がきっと居るだろうに、城の連中は何を俺に期待しているのかと何度も思っていた」

(俺様も•••旦那の忍になる時に、そう思ったっけなぁ•••何もこんな猿を側仕えにしなくたって良いのに、って)

「だがそんな時、元服前の梵天にあることを言われた」

「•••なんて言われたの?」

「自分に剣を教えたのが俺で良かった」

「•••!」

「言い方は素直じゃなかったが•••そう言われた時、右目という居場所を与えられ嬉しかったと同時に己を恥じた•••俺を信じた梵天を、政宗様を裏切るのかと」

(あぁ•••そっか、右目の旦那も俺様と一緒なんだ•••手助けしているつもりが逆に支えられてたんだって、知ってるんだ•••)

「•••それからは知っての通り、俺の主は政宗様以外に考えられねえし、この過程を無かったことにするなんて有り得ねえな」

「あはは、そうだよなぁ•••俺様も、無かった方が良いなんて思わないし無かった時の想像なんて出来ないわ、うん」

「くくっ•••ところで猿飛、知っているか?」

「え?なに?急に笑って•••?」

「そんなことを考えちまうのは、今が幸せな証拠だ」

「•••そう、なの?」

「ああ、そうだ」

「あら〜?言い切るなんてよっぽど自信あるんだ?それじゃ理由を聞かせてもらおうじゃないの、右目の旦那」

「それはお前が迷っていたから、だ」

「•••もしもし?あのさ、俺様が迷ってることの何が幸せだって•••」

「無かった方が良い、なんて断言が出来ないのは少しでも有って良かったと思うことが何かあるから•••じゃないのか?」

「!」

「•••その顔は図星か?」

「あ〜•••なんでそんな、自信満々なの?」

「俺のこの話を聴いて、あんなに優しい顔をしたのはお前だけだ•••だから、そんなお前の今が幸せなら嬉しいと思った」

「優しい顔って•••と言うか、それ確証が無いんじゃ•••」

「ああ、俺の希望だ」

「ぷっ•••なにそれ?幸せじゃない、って俺様が言ったらどうするつもりだったの?」

「その時は、今が幸せだと言いたくなるようにしてやるまでだ」

「ぶはっ•••!そ、それ都合良過ぎでしょ〜?•••んふふっ、あ〜駄目だめ!堅物代表な右目の旦那からそんなっ•••あははッ、ほんとダメ•••っ!お腹いた、ぃッ!」

「•••?俺は変なことを言ったつもりは無いんだが」

「ッ•••あははっ!真面目な顔で聞き返さないで、ほんとっ•••ツボに嵌っ•••ッ、っ!!」

「•••変な奴だな」

「っ、あぁぁ•••ッ!笑った笑った•••ッ」

「あー•••満足したか?」

「あ、もう!ちょっと笑ったぐらいでそんな呆れないでって!」

「•••どこからどう見ても、お前のアレはちょっとじゃねえだろ」

「だって右目の旦那ってば、本当のことしか言わないんだから」

「•••は?」

「ここに来るまでに色々有ったけど•••俺、今すっごく幸せだよ」

「•••••••••」

「へへ•••やっぱ俺様、右目の旦那のこと好きになって良かったなぁ•••出逢えて良かった」

「•••おい、過去の話みてえに言うなそこで」

「良いじゃん、今は右目の旦那が•••ううん、景綱さんが大好きなんだから」

「•••ッ」

「へっへ〜ん!俺様してやったり?」

「•••五月蝿え」

「あれあれ?もしかして照れてる?やっだ、可ッ愛い•••っ!?」

ムギュッ

「可愛いのは•••お前だろうが、佐助」

「•••はいはい、俺様『も』可愛いですよ」

「お前『が』可愛いんだ、わかったら黙って抱きしめられておけ」

「は〜い!可愛い俺様を愛してる、可愛〜い景綱さんにしっかり抱きしめられてま〜す」

「だから•••はぁ、わかった好きにしろ」

「やった、俺様の粘り勝ち!」

「•••やれやれ、可愛いとは物好きな奴だな」

「それはお互い様!•••でしょ?」

「フッ•••そうだな」

「〜♪」

(未だにこういうことをするのは背中が痒くなるが•••猿飛にならしたいと思うところが我ながら手に負えねえな、ったく•••)




おわり

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