「留ーっ」 「んあ?」 あれ、留 ちっちゃいや。 「星が綺麗だねー」 「そうだな」 僕の声も何だか幼……うわ!? 「星ってどんな味がするのかなー」 「石の味だろ」 ああ これは。 ずっと前の僕等。 「−−−−−夢…か」 寝過ぎたかな……。 障子戸の隙間から目元に零れる陽が温かい。 「でもま。今日は休みだから…」 「もたもたしてんじゃねえよ」 声のする方を見れば、留が私服姿で僕を見下ろしていた。 「おはよー、留」 「おはよう。…街へ出るんだったらさっさと支度しろよ、伊作」 「ふへ?」 とんだ間抜けな声を出してしまったが、踵を返して廊下を歩き始めた君には聞こえていないだろうか。 そうだ。今日は留と街へ出る約束をしてたんだった。 布団を畳み、押し入れへしまう。久しぶりの私服に袖を通して。 あれ、本当に枝毛なくなってる…。と先日、タカ丸さんに手入れして頂いた髪を高く結い上げた。 「留ーっ、お待たせ」 食事を済ませ、落とし紙の確認も終えて。門の前に居る留に駆け寄る。同じ部屋なんだから、門前で待ち合わせなくても一緒に行ってくれれば良いのに…とか考えるていたら、不意に足元の石に躓いた。 「うわあぁあっ!!!!」 「いさっ…」 こんなの日常茶飯事。いつも留に迷惑かけてばかりだ。 今日も留は僕を受け止めてくれた。今から出掛けるのに、服を汚す奴があるか。と叱られたけど。 「ありがとう」 そう応えると、恥ずかしそうに向こうを向いてしまった。こういう留は、可愛いと思う。 そうしていると小松田さんが、今日も仲良いねえ。といつものふわふわした声で茶化す。 「これからお出かけ?」 「はい。街まで」 「そっかあ。行ってらっしゃい。気を付けてねー」 小松田さんの見送りに、行ってきますと応えて。 僕達は街へと歩き出した。 「わー、いつ来ても賑やかだね」 「ああ」 街は道沿いの店までならず、屋台に芸人にと、人の声で溢れ返っていた。 「何処行こうか?」 「まずは昼にしないか」 「えー、僕さっき食べたばかり…」 「お前が遅過ぎるんだ」 額を突かれ、食事処を探す事にした。 「留は何が食べたいの?」 ご飯?蕎麦?と問い掛けていると、唐突に留が足を止めた。 「?どうしたの?」 「お前、飴好きだろ」 「…うん?好きだけ…ど!?え!?」 僕が言い終える前に、留は店内に入って行ってしまった。 そこは、南蛮菓子屋。 「もー…、何処行ったんだよ…」 路上で突っ立っていても仕方がないので、取り敢えず留の後を追うように、店内に入ってみたが。 「それにしても…」 南蛮の菓子はいつ見ても色鮮やかだ。形も様々で、見ていて飽きない。 饅頭や羊羹の慎み深い美しさとはまた違った、わくわくする感じ。 側に側にと目移りしていると、店員と思しき明るい声が、ありがとうございました。と言うのが聞こえた。 そうだ。留を探さなくては。 このままでは、僕の方が迷子になってしまう。考えをぐるんぐるんと巡らせていると、 「伊作」 背後から僕を呼ぶ声がした。 「っ…とめ…んぐ!!?」 振り返ると、確かにそこに居たのは留で。ただ、 「何この甘いの」 口の中に広がるのは、砂糖菓子みたいな。 「何でも、金平糖と言うらしい」 「へ…へえ?何で…」 「今日、夢を見て…な」 そんな昔のこと、 覚えてたんだ その名前を言いづらそうに口にする留の手には、きっと僕の口にあるのと同じ物であろう、色とりどりの星達が輝いていた。 |