SS

□SS
39ページ/42ページ



 
 
 
「らいぞ…」


何でもない夕方。部屋には同じ顔が二人。机に向かって宿題とにらめっこしていた僕の首に、吐息と共にするりと巻かれる二本の腕。



「?どうしたの、三郎」


「愛してる。」



何の前触れもなく訪れる囁き。これは、僕しか知らない君の音。その穏やかさにゆらりと浸ってみればまた、耳元でくすぐったいくらい強く。



「愛してるよ、雷蔵。愛してる」


「…うん、僕も愛してるよ、三郎」



その温度を感じるように君の腕に唇を落とせば、今度はうなじに甘さを感じる。そう、これが君の甘え方。僕だけが知っている、君の愛し方。


目の前の紙束をぱたんと閉じれば、巻かれた腕はそのままにくるりと振り返る。自分と同じ顔。だけど全然違う顔。



「…宿題は明日でいいや」




そう僕が呟くと、一瞬目を丸くしてまた見つめ合う。お饅頭にも、南蛮菓子にも負けないくらい甘いそれは、君の愛しさで彩られた接吻。



僕にしか見せないその目。僕にしか落とさないその唇。僕しか抱き締めないその腕。そして部屋中に溢れ出す、それが。



それが何よりのあなたらしさ



僕にしか見せないその優しい笑顔。




 

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ