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「おーい、そっち行ったぞー」



「え、わー!!無理無理っ」



校庭で同級生が遊ぶ声が聞こえる。人が図書室まで来て読書をしているというのに、耳障りなものだ。




「…………」



入学して早一ヶ月。友達は沢山出来た。担任の変装をするだけでクラスの奴等は寄ってきたし、手裏剣を的に当てれば先生や上級生の耳にも私の名前は入る。


それでも、




「ふっ、あははは!!お前けつ真っ黒!!」



「な!!お前があんな高くに投げるからだろ!!」





私はあんな風には笑えない。笑う事もないし、笑わせてくれる友達も居ない。勿論、笑う場面では笑ってやる。でも、楽しいかといえばそれは違う。笑いは、人間関係を確立するのに必要不可欠だから。だから、笑ってみせる。


何が、楽しくて笑うんだか。私には判らない。他人と居て何が楽しい。他人と関わる事は問題を生むだけ。皆、判っている筈なのに、何故自ら関わろうとする。




「…………」


さっさと卒業して、忍者になってしまいたいものだ。そうすれば他人と関わる機会もうんと減る。それを疎む輩も居なくなる。それが忍者というものだと、皆判っているから。



「…此処、飛び級とか出来ないのかな」


「うん。聞いた事はないね」


「ッ!?」



な、



「そんなに驚かないでよ。朝から会ってるじゃない、鉢屋三郎?」


声がした方を見れば、私と同じ空色の忍装束。頭の後ろで結い上げて頭巾からそれを出すという定番の髪型。山吹色の髪色が優し気な瞳をより穏やかに見せる。確か、



「…同じクラスの…不破雷蔵…だっけ?」


「正解」



そうにっこり笑う不破雷蔵は、典型的なお人良し。誰にでも優しく接し、何かと世話を焼いてくる、一番面倒臭いタイプ。そんないい子ちゃんが一体私に何の用だという。



「そんなに気になるなら、一緒に遊んでくれば良いのに」


あ、本当に面倒臭い。



「わざわざそんな事言いにきたの?」


素っ気なく嫌味をぶつけても、怒るどころか更に馴れ馴れしく私の隣に座ってきた。



「わざわざっていうか…たまたま目に入ったから話しかけてみただけ。僕、図書委員だから」



「…そう」



別に聞いていない事まで話し出す。ああ早く向こうに行ってくれないだろうか。



「三郎って外で遊ばないよね」



ああ一体何。それがどうした。お前には関係ないじゃないか。

私の眉間に皺が寄ったのに気が付いたのか、不破雷蔵はあっと口を押さえ、そして離した。


「ごめ、"鉢屋"の方が良かった…?」



そんな事か。もっと重要な事に気が付けよ。図書委員が生徒の読書を邪魔して良いのか。


「別に、何でも良いよ」


「そう…?あ、じゃあ三郎も僕の事、雷蔵って呼んで」



「…………」



どれだけ笑えば、気が済むのか。にこにこにこにこと、呆れるくらい笑っている。




「でさあ、三郎って読書好きなんだねー」


「悪い?」


「いや、良いと思うよ!!ただ意外だっただけ。何か三郎って外で皆と鬼ごっことかしてそう」


誰がするか。興味もない奴を追いかけて何が楽しい。意味もなく追いかけられて何が楽しい。ただ欝陶しいだけじゃないか。


「そういう雷蔵は見たままのイメージだよね。部屋で読書して、友達と話して。肌、白いもの」


「三郎だって白いじゃないか」


「これは仕様なの。変装のモデルが白かっただけ」


「ふーん」



雷蔵は返す言葉が見付からないといったように、それだけを零した。

ここで、私が読書に入れば完璧だ。お人良しは目の前で読書を始めた人間の邪魔なんかしない。

私は、指を栞にしていた本を再び、


「僕は、皆と話すのが好きなだけだよ」


「…………」



「外に出ないのは、嫌いなんじゃなくて委員会があったり、雨が降ったりするだけで…」



どうして、こいつは。



「あ、今度晴れたらさ、三郎も一緒に外で遊ぼうよ」


ああ、面倒臭い。



「皆も誘ってさ。んー、鬼ごっこ?三郎は何した「うるさいよ」



「……へ…?」



お人良しは、何の理由もなく笑う奴は、



「私は、必要以上に他人と関わる気はないから」



「…どうして?」



しつこいから嫌い。



「…理由が判らないから。逆に聞くけど、何が楽しいの」


「何って、皆と話したり、笑ったり…相手の事が判るって、知らなかった事が判るって、楽しいじゃないか」



あ、笑顔が歪んだ。

お人良しはこれだから困る。さっさと怒って去ってくれた方がいっそ清々しい。



「私は楽しくない。まず他人に興味が沸かないし、面倒だ」


「…………」




「勿論、お前も例外じゃないよ、雷蔵」




さあ離れて行ってしまえ。面倒事はさっさと退けてしまえ。

気が付けば、窓の外の同級生達はもう居ない。そんなに長く話していただろうか。

こいつも、授業が始まるから、と言えば充分な口実になるだろう。後ろめたさなんか感じずに、私から離れていけるだろう。



「聞いてるの、雷ぞ「判らないよ!!」



「…………」




「判らない、判らないよ?友達と居ると楽しいじゃない。…三郎が、私を嫌いでも、私は三郎が好きだもの!!もっと仲良くなりたいって思うじゃないか!!それに皆だって、三郎の変装が珍しくて、それだけで話しかけるんじゃない。皆、三郎と友達になりたくて、だから…っ」


「いい加減にしろよ」




雷蔵の肩が判りやすいくらい大きく揺らぐ。その表情からは、もう笑顔なんて見付からなかった。




「お前が楽しくても、私は楽しくない。それはただお前が考えを押し付けてるだけだ、どうしてそれに気付かない?」


「押し付けてなんか…っ、僕はただ三郎と…」


「…そういうのが、欝陶しいっていうんだよ」



「…………」




もう、目の前のクラスメイトは目も合わせてこない。



だから、嫌なんだ。





信じたって裏切られるだけじゃないか



(だから、始めから関わらない)



(でも三郎、僕は君を信じてるよ)




 

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