SS

□SS
33ページ/42ページ



 
 
 
ああ、負けてしまった…?

そんな馬鹿な。天は私共を見捨てられたというのか。あれ程までに戦い果てた者達をも、見捨てられたというのか。

無慈悲にも程がある。どうして、私達が。





「…菊?」



襖の向こうから、フェリシアーノさんのお声がします。おかしいですね。彼は確か、まだ戦っている筈です。私の家に居る暇などないでしょうに。ルートヴィッヒさんに見付かったら、ひどく叱られてしまいそうですね。



「大丈夫か?本田」



まあ、ルートヴィッヒさんもご一緒でしたか。お二人揃っていらっしゃるなんて、いかがなされたのでしょう。もう参戦の時刻でしたかね。それならばさっさと支度を済ませてしまわねばなりません。



「少々、お待ち下さい」



顔の見えないお二人にそう応えながら、軍服を着込みます。もう誰のものだったかも判らない、赤を染み込ませた軍服。元はあんなにも真白だったというのに。

日を包む白。我が天のそれを、異国の者の血で汚してしまうとは。私はなんという愚か者。

それに報いる為にも、私はこの刀で勝利を天に捧げるのです。その為の私なのですから。


刀を納めた鞘をしっかりと携えて、お二人の元へ急ぎます。





「お待たせ致しました」



襖を開くと、やはりお二人がいらっしゃいました。いつもと変わらない肌、髪、瞳。ただ、違っていたのは。



「お二人共、軍服をお忘れですか?」



見慣れない、衿のない服をお召しになっているお二人は、ひどく驚いたような表情をされてしまいました。




「……?いかがなさ「菊っ…!!」



突然、フェリシアーノさんが私の肩にしがみつかれます。その声は何故か涙で濡れていて。ルートヴィッヒさんはただ私達から視線を外すまいとしつつ、とても悲しそうなお顔をされていました。



「フェリシアーノさん?」



名前を呼んでも、フェリシアーノさんは体重を私に預けてくるばかり。手だけでなく、その服までもが私の軍服を彩る赤に染められてしまいます。



「あの…戦いに急ぎませんと…」



肩に載せられたフェリシアーノさんの手を私の手が包むと、ルートヴィッヒさんが何かを言いかけました。しかしそれが音として私の耳に届くより早く、フェリシアーノさんが叫びます。



「菊っ!!…もう、終わったんだよ…」



何の、事でしょう。



「もう…戦わなくて良いんだよ?もう、大丈夫だから。もう、終わったんだ…」




何が、終わったのでしょう。







「よく…判りま、せ…」





それは最後まで発音出来ず、私はフェリシアーノさんの胸で、





「…きく……だいじょ、ぶ…だいじょうぶだから…」


「…本田…よくやった…」





現実逃避もいいかげんにしろ



軍服を染めた赤は、
涙では滲みませんでした。




 

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ