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今日も学園は平和だ。


忍者を育成する場を平和と表現するのは良いものなのかは判らないが、私にとっては平和なのだ。


保健委員長、善法寺伊さ「善法寺先輩!!」


この不運さ故に学園のありとあらゆる事件に巻き込まれる事もしばしば。それも、出番にならないところでの地味な事件だ。不運だから、と割り切ってはいるのだが。


「善法寺先輩っ!!」


また私の名を呼ぶ声がする。私は学園最高学年の六年生だから、先輩と呼ぶ後輩はかなりの数だ。でも判る。他の生徒よりも接する時間が長い、保健委員会の彼等は。



「乱太郎、そんなに慌ててどうしたんだい?」


髪が結えない程の癖っ毛を頭巾から零しながら、肩を上下させる後輩に問う。



「ふ…っ、伏木蔵と川西先輩が蛸壷に落ちて怪我を!!」


「何だって!?」



新野先生は出張。今日の学園内の治療は私が請け負う事になっている。息を整える乱太郎を部屋に残し、私は二人が居る保健室へと急いだ。





「大丈夫か!?」


保健室は静かに、とはよく言ったものだ。保健委員長の自分がこれを破る日が来るとは。


二人は保健室の治療台に並んで座っていた。


「善法寺先輩…」


伏木蔵が目を丸くしてこちらを見る。それに続いて左近の視線を感じた。


「どうしたんですか…?」


「え?君達が怪我をしたって聞いたから…」


こちらも驚き返すと伏木蔵がふふっと吹き出した。と同時に、背後から乱太郎が息を切らせて入ってくる。


「はあ…善法寺先輩、速い…」


訳も判らず視線を飛び歩かせているとまた伏木蔵の笑い声が聞こえた。


「乱太郎、先輩に何て言ったの?」


そう問われた乱太郎も苦笑して答える。


「二人が怪我をして、自分達でも治療出来る怪我だけど医療品の場所が判らないって言おうとしたら、先輩途中で走って行っちゃって」



ああそういうこと。



見れば二人の"怪我"は、膝や肘のかすり傷だけだった。



「…なんだ…」


良かった。



「すみません、私の説明不足で…」


乱太郎が私の側まで来て、しょぼんと視線を落とすので軽く頭を撫でてやる。そうすれば顔を上げて、笑ってくれるから。



「で…、医療品はどちらですか?」


左近に申し訳なさそうに尋ねられ、少し歩いた棚の中から必要と思われる医療品を取り出して、二人の前の教員椅子に腰をかけた。


「「え?」」


伏木蔵と左近が目の前に座った私の顔を疑問の顔で見てくる。私はただ笑って、



「たまには私に治療させてくれ」



そして綿に消毒液を染ませた。




少しの間、戸惑いながら治療されていた二人だったが、次第に表情が緩んできて。


「人に治療して貰うの久しぶりー」


「して貰っても新野先生だしな」


「さすが、先輩手際良いですねー」



乱太郎も加わり、春の匂いに包まれた保健室で会話に花を咲かせた。





偶にはそんなのもありかもね



私はとてもあたたかい。




 

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