「仙蔵」 「仙蔵」 夢を見た。 さして怖い夢ではなかったが、恐ろしい悪夢であった。 「仙ぞ……やっと起きたか」 重い瞼を上げれば、よく見知った顔がそこにはあった。 「文次郎…」 ふと辺りに視線を向けても、まだ夜は明けていないようで。それでも目の前の級友は私の顔を覗き込むようにして布団から肩を出していた。 「…夜這いか?」 「違う!!」 いつものように笑ってみせれば、即座に応えが返ってくる。ああこれが現実。 「仙蔵、お前唸されて居たぞ」 あたふたした後、自分を落ち着かせようとか布団に入り始めた文次郎が、眠いのか元からなのか目を細めてこちらを見た。 「そうか」 短く応えれば、気を察したのか否か文次郎は布団に入りきった首を視線ごと天井に向けて、ああとまた短く返してきた。 特に何をするでもない、後は瞼を閉じて身体を休め日が昇るのをこんな布切れの塊の中でただただ待ち会うだけ。 単純過ぎて飽き飽きする。 ああ 現実はどこまで行っても悪夢の続きなのかも知れない 夢よまだ覚めることなかれ。 |