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「進路、ですか」




昼休み。珍しく滝夜叉丸と喧嘩をするでもなく、満腹感に浸りながら自室に戻る途中、聞き慣れた声がした。


(あ…潮江先輩だ)


別に隠れる必要などないのだけれど、不意に足を忍ばせてしまった。突き当たりの柱の影に身を潜める。相手は上級生、しかも学園一忍者していると言われる潮江文次郎先輩だ。気付かれない訳がないのだが。


(いつもなら昼休み返上で訓練、鍛練なのに…)


先輩はどうやら担任の先生と話し込んでいるようだった。




「潮江君の事だから、忍者になるのだろうが…何処か志望の城とかはあるのかね」


「今はまだそこまで考えておりません」




(そうか…先輩6年生だもんな…)


そんな当たり前の事を今更思い出して、俯いている自分に気付く。




ずっと、一緒には居られない。




日々の鍛練はかなり辛い。正直、やり過ぎなんじゃないかと思う時もある。

でも、先輩は。

それが当たり前の世界に出て行くんだ。辛いなんて、言ってられない。いつ、死ぬか判らない。死んだ事すら、生きていた事すら抹消されてしまう、忍の世界に。




前に、尋ねた事がある。



「先輩は怖くはないのですか?」

「何がだ」

「忍として…生きていく事がです」


「田村は怖いのか?」

「……少しだけ」


「…俺は、自分に出来る事があるなら、それをやって死にたいと思うだけだ。忍たる者、それ以外の私欲は要らん」



その時は、ああやっぱりこの人は学園一忍者してる潮江文次郎先輩なんだなあー、としか思ってなかった。

忍たまの友にも、同じような事が書いてあったし、疑いもしなかった。


でも、先輩。







「…………………」



勘違いしてた訳じゃない。

ちゃんと理解してた。



だけど、



「……っ…?」




不意に零れた吐息が、

大気を揺らす。




「誰だ?」



そんな聞き慣れた声がした。



「……田村?」



目の前で。




「なっ、何を泣いているんだ!?」

「…っ…すみま…せ…、ぅ…っ」





先輩、私は弱虫です。

先輩が思うような、良い後輩…忍者にはなれないかもしれません。



貴方の背中を追い掛けるのは、とても辛いけれど、愛おしくもあった。

貴方は私の憧れだから。





死んでなど欲しくはないのです。





「大丈夫か?」



今はまだ手の届く貴方を


私が忘れてしまうまで、





死んだりしたら、
許さない




「……はい」



貴方に追い付きたくはない。




 

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