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「私は豆腐が嫌いだ」


兵助が突然そんな事を言い出した。



「へえ…」

「そうなんだ」


三郎と雷蔵が、特に気に留めるでもなく答えて、宿題に再び視線を落とした。

二人共知っている。今日がエープリルフールだってこと。


勿論俺も例外じゃない。朝はすっかり忘れていて孫兵の、ジュンコは生き別れた妹の名前なんです…などという迫真の演技に騙されてしまったが、兵助の発言までに数人に嘘を吐かれた。

三郎なんか、生物委員顧問の木下先生に変装して毒虫が逃げたと言って、朝っぱらから叩き起こしに来た。こういう時、変装名人ってのは有利だと思う。


この二人が、俺にとって今年のベストオブどっきりだ。

だから今日は、もう騙されない自信があった。し、騙されてない。


兵助が、豆腐嫌いな訳がない。

豆腐小僧の異名を持つ兵助が豆腐を嫌いでは、誰が豆腐を食料と認めようか。


俺も、そっか今まで我慢してたのか。とか言ってやろうと、空気を吸い込んだ時だった。




「はっちゃん…」


今まで俺達3人に向けられていた兵助の視線が、俺だけに向けられた。

俺は訳も判らず、疑問詞を添えた視線で兵助をただ見つめ返す。


「はっちゃんは、信じてくれるよね…?」


何を言っているんだ豆腐王子が。

つい先程まで脳内で否定しまくっていたものを、そう易々と信じられる程俺は馬鹿じゃないし優しくない。だいたいここで兵助の肩を持ってみろ。明日から三郎に、話のネタにされるに決まってる。


「あ…いや俺は…」



「私ははっちゃんの事信じてるよ」



は?え?どういう状況なのこれ。

三郎と雷蔵は、絶対に声が聞こえている筈なのに、我関せず。というよりか我関するものか、とばかりに黙々と宿題を解いている。このやろう、俺だって同じだけの宿題が出ているというのにちくしょう。


取り敢えず、意地でも騙してやるんだという雰囲気たっぷりの兵助を宥める事にする。



「兵す「はっちゃん好き」



へ?



「私、豆腐よりはっちゃんのが好きだよ…?」



そ、それは…かなり嬉しいんだがまずは、豆腐という基準がおかしい事に気付け俺。

そんな葛藤を知ってか否か、兵助は俺との距離を更に縮めて上目遣いで見つめてくる。


そんなんで…


「はっちゃん好きだよ…」


なんて言われてみろ。
これやばいって。



「あ……俺は、」


「はっちゃん…」





これも嘘だったら、
…どうする?





 

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