novel1
□夜空。
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魔法と蔵書で有名なレコルト国。
羽根を捜し求めて、中央図書館へ行くことは決まったものの、すでに夜も遅く。
四人と一匹は宿を取って休むことになった。
この国のお金はあまり得ていない。
四人で大きな家族用の部屋を借りると、何故かモコナが場を仕切りだした。
モコナの仕切りにより、大きなベッドに、黒鋼、小狼、サクラ、ファイの順番で眠ることになる。
モコナが言うには、父親と母親は外側になるのが普通らしい。
父親役に多少の不満は感じたものの、黒鋼は文句を言わずに従った。
仕切ってわざわざ寝る場所まで決めたモコナは、今、黒鋼と小狼の間で丸まっている。
「…………」
夜中にふと目が覚めた黒鋼。
元々眠りは深くなかったため、急速に覚醒する。
部屋の暗さから言って、まだ夜中だろう。
すぐ近くで丸まる小動物に、その隣でぐっすり眠っている小狼、そして無意識なのかそんな小狼に寄り添うように眠っているサクラ。
「……?」
黒鋼はふと顔を上げた。
そのサクラの隣。
いつも癖のようにうつ伏せで眠る、魔術師の姿がないのだ。
どこ行ったんだ。
黒鋼は他の人を起こさないように、そっとベッドから降りた。
気配を消し、そっと寝室の扉を開けると、そこから微かな光が洩れる。
寝室と直接繋がっているその部屋の窓際に、ファイが立っているのが黒鋼の視界に映った。
黒鋼がほっと息をつく。
ファイは窓からじっと外を眺めているようだった。
「……何してる」
黒鋼は、寝室の扉を閉め、ファイにそう声をかけた。
ファイは黒鋼に気付いていたのか、驚いた様子もなく答える。
「……別にー。起きたの?」
「ああ」
窓から視線を離さないファイ。
黒鋼は近づくと、ぐっと後ろからファイを抱き締めた。
これには流石に驚いたのか、黒鋼の手に自分の手を添えながら、ファイが小さく笑う。
「どうしたのー? 珍しいね」
「てめぇこそ、どうした」
「……んー、何が?」
「何を考えてる」
「…………」
黒鋼の問いに、ファイは沈黙で答えた。
どこか、寂しげな雰囲気が漂うファイ。
黒鋼が急に抱き締めたのも、それが気になったからだ。
「言えねぇのか」
「違うよ。……何か、漠然としてて」
「あ?」
「少し、胸騒ぎがするだけ」
理由は分からないんだけど、そう言ってファイは身体の向きを変えた。
正面から黒鋼に向き合うと、笑ってぎゅっと黒鋼に抱きついた。
そんなファイの胸騒ぎを打ち消すように、黒鋼もきつくファイを抱き締めた。
「黒様も、今日はずっと考え込んでたじゃない」
「あー?」
「小狼君と何かあったんでしょ?」
「別に何もねぇよ。小僧のおかげで、知りたかったことがちょっと分かっただけだ」
「……ふぅん。……別に言いたくないことは聞かないよー?」
ファイが笑ってそう言う。
黒鋼がファイの身体を離そうとすると、ファイがそれを嫌がるようにぎゅっときつく黒鋼に抱きついた。
「……もっと、きつく抱いて」
「………」
「お願い」
ファイにそう言われると、黒鋼は断る術がない。
さっきのように、もう一度ファイを抱きしめると、ファイがほっとしたように息をついた。
「……大丈夫か?」
いつもとは違うファイ。
そんなファイが、黒鋼がさっきから気になっていた。
「うん。……黒様の心音、なんか落ち着く」
「……。……何を考えてる?」
「…………」
「何か、……怖いのか?」
ファイが首を横に振る。
ファイは何も言えずに、黙った。
何かが怖いわけじゃない。
ただ漠然とした、胸騒ぎ、不安が消えてくれない。
普段から勘がいいファイは、この胸騒ぎがよく当たることが多かった。
どうして、こんなに不安なのだろう。
それさえも分からない。
ぎゅっと黒鋼に抱き締められながら、ファイはほっと息をついた。