カレンダーに唯一マークがしてある九月九日。獄寺の誕生日。
俺にとっては、一大イベントのうちのひとつだ。っていうか、一年の中で一番大事な日。

それなのにプレゼントは何も用意できていない。
獄寺に何が欲しい?と訊いてみたが、何もいらないという獄寺。
ここ二週間ぐらいずっと悩んでいたが、結局何も思い浮かばず。
夏休みの間にいろいろ探し回ってみたものの、どれもピンとくるものは何もなかった。
もういっそ、婚約指輪でも買おうかとも思ったが、バイトもできない中学生のお小遣いではそんなもの買えるわけもなく。
あっという間に九日を迎えてしまった。


「獄寺君、お誕生日おめでとう」
「!そんな、恐れ多いです、十代目」
「いや、そんな大した物じゃないけど…良かったら受け取ってね?」
「スミマセン、ありがとうございます、十代目…」


帰り道にツナが獄寺に綺麗に包装されたプレゼントを渡しているのを見て、何とも言えない罪悪感。

そういえば、おめでとうの一言もまだ言っていない。

ツナと別れてから、獄寺を家に招いた。
が、獄寺はうちに来いよ、と言って一緒に俺は獄寺のマンションに向かった(たぶん俺の家には親父がいるから気まずいのだろう)。


「獄寺…」
「俺、シャワー浴びてくる」


これじゃあいつもと同じだ。
獄寺はツナからもらったプレゼントを机の上に置いて、すぐに脱衣所へ行ってしまった。

その後は、流れで俺もシャワーを浴びて、ベッドで横になっている獄寺に近付いた。
話しかけようとしたが、そんな雰囲気でもなく、何よりきょとんとしている獄寺が愛しくて、唇にキスを落とした。


「……ごめんな」
「別に…」
「プレゼント、買おうと思ってたのに…」
「お前からのプレゼントなんて何も期待してねーよ」


はは、と笑って獄寺はそう答えた。
何か特別なことをしたくて、こうやってふたりきりになった訳だけれど、結局何も思いつかないまま。


「もうすることは決まってんだろ」


結局、いつもと同じなのだ。
それでも熱は抑えきれなくて、俺は獄寺にもう一度キスをする。


「……、誕生日おめでとう」
「それ今言う台詞じゃねーし」










***








目が覚めたときには、もう日にちを跨いでいた深夜の時間帯だったと思う。
外がもう、ほんのりと明るかった。


「…獄寺?」


のそ、と寝返りをうってこちらに寄ってきた獄寺にそっと声をかける。
さらりとした髪を触れば、うっすらと目を開いた。


「………ん」


鬱陶しいそうに眉を寄せているが、それでも俺の胸に顔をうずめる仕草が可愛くて、おでこに唇を落とした。
ふわりと香る獄寺のにおい。
もう一度キスをしようと思ったら、獄寺は隠れるかのようにシーツの中に潜り込んだ。
顔だけを出して、悪戯をしたように小さく笑う小悪魔。


「ぶはっ」
「…捕まえた」
「変態に捕まった」
「ひでぇよそれ」


背中から抱きしめて肩に顎を乗せる。獄寺はくすぐったそうに少しだけ身をよじった。


「…山本」
「ん?」


いつもなら蹴り飛ばすか何かしらされる筈なのに、今日の獄寺は大人しく感じた。
いつもこうだったらいいのに、なんて思うけど、俺は素直じゃない獄寺も好きだし、というか、獄寺ならなんだって好きだ。


「…プレゼントのことだけど」


そう言われて、突然のそのことに驚いた。
何か欲しいものでもあるのだろうか。所持金は少ないけれど俺のできることならなんだってしてやりたい。


「……今日は学校休め」
「………え?」
「俺も休む」


行きたい場所でもあるのだろうか。映画館でも博物館でもどこだって大歓迎だ。
獄寺は急にこちらの方を向き、俺の目を碧色が捕えた。




「…今日1日ぐらい、そばにいろ」




そんな申し出を断ることなんかできるはずもなく。
喜んで、と呟いて優しく抱き締めた。


ふわりとしている夢心地。
ずっと、こんな日が続けばいいのに。


もう一度、最大の愛を込めてキスをした。














end
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