short story
□熱に侵される
1ページ/1ページ
最近の俺は獄寺を見る目がおかしい。
友達として、見ていない。
気付いたのは本当に最近のこと。
細い腰をしている獄寺。色っぽい唇や長い睫毛。
獄寺の魅力がこんなにあるだなんて気付かなかった。
そんな獄寺を抱きたい、と思うことだって何度もある。
他の男だったらこんなこと絶対思わねえのに。
それが好きという感情だということも最近気付いた。
獄寺に触れたいな、という思いは毎日のようにある。
他の女の子にはそう思わずに、獄寺にはそういった思いがある。そんな俺は相当獄寺のことが好きってことなんだろうか。
男だからって誰でもいい訳でもない。俺、ホモじゃないし、普通に異性愛者だし。
…だと、思っていた。けど。
(…ついに頭おかしくなったのか?)
好きで堪らないのだ。
油断していれば頭の中は獄寺のことでいっぱいいっぱい。
今まで恋愛もそれなりにはしてきたが、こんな思いになるなんてことは初めてで、どうすればいいのかわからなかった。
(どうして、)
ツナに駆け寄り笑顔で話しかける獄寺。
ツナに対する嫌悪感。それだけが増していく。
友達にまでそんな感情を抱く自分が嫌で堪らなかった。
(俺だけを見ないんだ)
俺にはめったに見せない笑顔をツナには簡単に見せる。
それが気に入らなかった。
嫉妬しているということに気付くのは遅くなかった。
「獄寺ってさ」
「あ?」
「なんで俺に笑顔見せてくんねーの?」
「見せる価値もねえから」
「ひでー」
下校中にさりげなく聞いてみた。
獄寺は、俺が嫉妬しているのに気づいてんの?
獄寺は、俺が毎日お前を目で追ってるのに気づいてんの?
人を本気で愛したことなど、今まで一度もなかった。
俺は本気だ。
気が狂うほどに獄寺が好きだ。
親友に、憎しみを覚えるほどに。
「俺は獄寺が好きだ」
不意に漏れた言葉。
しまった、そう思ったが獄寺は全く動揺も何もしていない。
「ふーん……で?」
なんとも突拍子のない言葉が返ってきた。
それはまるで、俺がずっと好きだったということを知っていたのかのように。
「引かねえの?」
「べつに」
「獄寺ってホモなの?」
「違うし、お前に言われたくないし」
「俺はホモじゃないよ」
「知ってる」
意外とあっさりとした反応に驚いた。
慣れてんのかな。
いやまさか。男に告られたら俺だって引く。
冗談だと思っているのかいないのか。
「獄寺のこと、本気」
「わかったって。だから何だよ」
「だからキスしてもいい?」
「いいぜ」
「えっ?」
「したいんなら、すれば?」
それは夢のようだった。
無理を承知の上で訊いてみるとまさかオーケイがもらえるだなんて。
獄寺が、目の前で、真っ直ぐに俺の目を見ている。
唾をゴクリと飲んで、ゆっくり、キスをした。
…唇にはせず、頬に。
ゆっくりと唇を離して、獄寺を見ると、ハッとため息をついて笑っていた。
「キスもロクにできねーくせに、そんなこと言ってんじゃねえよ」
違うんだ、これはキス出来ないんじゃなくて、しないだけ、
間違って全部奪ってしまいそうだから。
いつも通りに、じゃあな、と言い獄寺はくるりと背を向けて歩いていった。
近いけれど、遠い。
そんなところから俺は獄寺を毎日、見つめているのだ。
end
ブラウザのバックでお戻りくださいませ。