short story

□愛欲に溺れる
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俺の大好きな、碧色の瞳。
それを占領できる時間が、とても好きだ。







「獄寺!火!」
「…それからこの調味料を…」
「獄寺ってば!」
「え?」


鍋から勢いよく溢れる炎。
俺は咄嗟にコンロを消し、近くにあった濡れ布巾で火を消した。
鍋から溢れている大量のパスタ。
パスタを茹でていただけなのに、どうして炎が出るのだろうか。
獄寺、何か変なモノでも入れたのか?


「…やっぱり、俺も手伝うよ」
「いいからお前は黙って寝てろ」
「…いや、獄寺が心配なんだって」


最近は部活帰りに、獄寺のマンションに寄る。
ご飯とかはいつもコンビニか、俺が即席で作ったりしているが、今日は「獄寺何か作ってよ」なんて言ってみたら、意外と素直に獄寺はキッチンに立った。
まさか実際に何かを作ってくれるなんて思ってなかったし(そもそも獄寺の手料理を食べたことが今までにない)、嬉しかったが、先ほどからずっとその後ろ姿を見ていると危なっかしくてしょうがないのだ。
一生懸命になってる姿はとても可愛らしいけれど。


「な?お願いだから手伝わせて」


調味料の分量を必死にはかっている獄寺を下から覗き込んで言えば、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。






***






「ん、おいしかった」
「…そうだな」
「また作ってよ」
「やだ」
「なんで?」
「…火事になる気がする」
「じゃあまたいっしょに作ろう」


食器を洗いながら獄寺を見ると、獄寺は視線を逸らして、お前なあ…と呟いた。

なんだか新婚さんみたい。
獄寺ともいずれ、こんな生活を毎日するんだなあと思うと、未来予想図が膨らんだ。
食器を片付け、ソファに座って本を読んでいた獄寺の隣に座る。


「食後のデザート、獄寺がいいんだけど」
「…………は?」


呆然としている獄寺を抱き上げて、ベッドに降ろす。
衝動で、獄寺の掛けていたメガネがズレた。

…駄目だ。
獄寺が好きでたまらない。
傍にいるだけで幸せではあるけれど、欲しい、と思ってしまう。


「ちょっ…シャワー…」
「あとで」


無防備な獄寺に覆い被さり、指先にキス。
ゆっくりと上に移動して、首筋に顔を埋める。ふわり、獄寺のにおい。

充分に唇を這わせてから、おでこにそっとキスをする。
ぼんやりと眺めている瞳にも、邪魔なメガネは取り除き、キスをした。


「なんかくすぐったい」


最後に。
そう言って弧を描いた唇にも、そっと唇を落とした。













end
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