short story

□Choose me!
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十代目と一緒に、十代目の補講カードを取りに職員室をウロウロしてきた。
十代目は何故だか、ついて来なくてもいいよ、と優しくおっしゃったが、ウザい教師に十代目がもし怒鳴られたらぶっ飛ばしてやろうと思い同行していくことにした。
教師全員にガン飛ばして歩いていると、十代目は何故だか困った様に「お願いだから、大丈夫だから、山本と先に帰っててくれないかな」と言った。
何か十代目を困らせたようなことをしたのか考えたが、何もわからない。
お願い=命令と捉えている俺は、その命令に従って渋々帰ることにした。










「……オイ山本」


教室に戻れば、先程まで課題を一生懸命していた山本がいつの間にか爆睡していた。
頭でも叩いて起こしてやろうかとも思ったが、気持ちよさそうに寝ているその顔を見れば、どうしても出来なかった。

前の席に座り、その無防備な顔を見る。
静かに寝息を立てて寝ているその姿は、いつもの馬鹿な姿とはまるで、正反対だった。


(相当疲れてんのかな)


授業中も何気なく山本を見ると、こうやって寝ている時が多い。
野球部のことはよくわからないが、相当キツい部活だとは聞いている。
体力バカのくせに、疲れているのだろうか。

整った顔を眺めていると、なんとなく、こんな奴にファンクラブが出来る理由もわかった。
なんとなく、ムカつく。
頬を引っ張って起こしてやろうかとも思ったが、やめた。
黙っていればコイツもかっこいいのだ。たぶん。
こんだけモテるのなら、彼女のひとりやふたり、作ればいいのに。
コイツのことを好きな奴はそこらじゅうにうじゃうじゃいる。


(ていうか、コイツも、誰かを好きになったことなんてあるのだろうか)


そういう色恋沙汰の話は今まであまりしたことがなかったし、今思えば俺は山本のことを何も知らない。
初めて会ったときは、本当に苦手だった。
ヘラヘラしてるくせに、強いし。十代目の右腕を取られそうになるし。しつこく、纏わりついてくるし。
けど、今はどうだろう?
自然とその姿を目で追ってしまう。
そのくせ、目が合いそうになると、不意に目を逸らしてしまう。
…目が合うとなぜか苦しい。


そんなことをぼんやりと考えていると、触れたい、そう思った。


(俺は何を考えているんだろう)


自然と手が山本の頬に伸びた。
触れたいと思ったことはない。
けど、今は触れたい。

手のひらが、頬に触れる。
もう一年以上の付き合いにもなるが、俺から山本に触れるのはもしかして、これが初めてだったのかもしれない。
顔を徐々に近づける。
俺、一体何してるんだ。そんな自覚はある。けれど、止められないのだ。








――なあ、山本、






「……ん…?」


いきなり小さく唸って、目を開ける山本。
思わず息がかかるほどに近かった顔を引っ込めた。

やばい。どうしよう。
もし気づかれていたら。


「……っ!」
「うおっ!?」


思わず手が出てしまった。
気付いたときには、右手はグーで、山本の頬にクリーンヒット。

ガシャーン、と机と椅子が派手にひっくり返った。
もちろん、山本も共に。


「……獄寺?」



――俺だけを見ろよ。
そう思ったこの感情は、一体何なのだろう。
心拍数がありえないぐらいはやい。


「………る」
「……る?」
「…もうテメーなんて知らねえ!帰る!」
「え?え、ちょっと、獄寺、」


待って、俺も、一緒に帰ろうぜ、そう言いながら腕を掴む山本。
俺とは違って、簡単に触れてくる山本。
その瞬間、コイツは何を思っているんだろう。


「…ずるい」
「…え?」
「……ムカつく」


山本の顔を見て俺はそう言い放った。

目は合わせられない。
胸が苦しくなるから。











end
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