short story

□入試前夜のこと。
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生徒山本×教師獄寺パロ
大丈夫な方のみどうぞ














チク、チク。
カリカリ。

静まり返った教室で聞こえるのは、時計の音とシャーペンの動く音。外は既に真っ暗だ。
入試、前夜とでも言えばいいのだろうか。
目の前にある志望校の過去問をひたすら解く。

苦手だった英語。
アルファベットすらスラスラと書けなかったのはつい最近のことだと思っていたが、今ではもう別人の手みたいだ。
問題を見て、手がスラスラ単語を書き始める。




「……終わった…」


シャーペンをカチャリと机の上に置き、大きな伸びをした。
答案用紙にはちらちらと空欄が何ヶ所かあるが、英語が全く出来なかったときよりは遥かに解ける問題が増えてる。
空欄が多かったあの時とはだいぶ成長したみたいだ。



「ばーか終わったじゃねーよ。見直ししやがれって毎回言ってんだろ」



口調は悪いが、凛として、透き通っているような声が静かな教室に響いた。
何度も聞いたけれどやっぱり好きな声、その持ち主は英語の担任、獄寺先生だ。
慌てて間違いがないかもう一度答案を見つめた。

クラスで英語が最下位(だった)な俺は毎回補講をし続けて、今では英語が一番の得意分野といってもいいぐらいになっていた。


「終わったよ」
「…ん、採点するから貸せ」



答案を渡して先生が赤ペンをスラスラと動かす。


「…山本、過去問得意だろ」
「え、なんで?」
「フツーのテストだと毎回赤点なのに、過去問だけ赤点じゃねーんだよ」
「…本領発揮してんの」
「うぜー」



実は補講受けられなくなるのが嫌で、わざと赤点取ってたなんていうのは先生は知らないだろう。

あれからテスト終わる度に補講、また補講…と何度も先生と2人きりになるときはあったけれど、未だに関係はやっぱり、先生と生徒のまま。
告白なんてできる勇気もなくて、遂に明日は受験というところまで迫ってきた。


(もう、無理なのかな)


相当なヘタレだと思う。
告白、とりあえず自分の気持ちだけでも伝えたいけど伝えられない。
自分達はやはり先生と生徒の関係で終わるのだろうか。


「あ、今までの中で最高点」
「…え?」
「…明日入試だろ、ぼんやりするなよ」
「…うん」
「敬語」
「はい」


綺麗な字で採点された答案を受け取る。
赤で書かれた数字は、今までのものより10点ぐらい高かった。
これも先生のおかげだ。もし補講がなかったら、いや、先生が担当じゃなかったらこんな点数を見ることはなかっただろう。


「いよいよ明日だな」
「うん」
「問題しっかり読めよ」
「うん」


外はもう真っ暗だった。帰りは先生が(珍しく)玄関まで見送ってくれた。
ひやっとした空気が頬を撫でる。
寒かったけれど、少し火照っていた俺には心地よかった。


「先生、今までありがとうございました」
「…そういうのは受かってから言えよ…」
「だって先生いなかったら俺こんなに英語出来るようになってねえし」


そう改まって言うとなんだか恥ずかしくなって顔を伏せた。
補講だってもうすることがないだろうし、もしかしたら先生と2人きりで話すのはこれが最後なのかもしれない。
好きだって、それだけでも伝えたいけど、やっぱり、できない。


「じゃあ、先生、」


そのまま背を向けて帰ろうとしたら、先生にそっと肩を掴まれた。


「……必勝祈願」


ぽかんとした口に、何かが触れた。
理解するのには、少しの時間が必要で。
未だにぽかんとしていると、先生は、にい、と笑った。


「…え、え……?」


明日頑張れよ。
先生はそれだけ言って、背を向けた。


「…先生!もし合格したら、また補講して!」


好きです。
そう言いたかったのに口では全く違うことを口走っていた。
とにかく、もう2人で会えなくなるのが嫌だった。



「変な奴。…考えとく」



先生は振り返ってまた、笑った。

夢なんじゃないかって帰り道に何度も頬をつねったり叩いたり殴ったりしてみたけれど、どれも痛くて嬉しかった。

明日は人生を左右するぐらいの大事な入試。
家に帰ってきても、問題集より先生のことで頭がいっぱいだった。



合格したら、先生に想いを伝えよう。
そっと唇に触れる。
合格しますように!











end
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