short story

□君に会いたくなるから
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※ちょっと暗いです













時々ケータイを握りしめたまま寝てしまうことが多い。
電話やメールの着信が気になってしまう。どうしてだろう。今までこんなことはなかったのに。


優しくされるとすきになってしまう。
俺は弱いから。孤独が怖いのか、すがりついてしまう人間だから。




十代目の家へお尋ねしてイタリアへ帰りますと言った。
もちろん十代目の右腕を捨てるつもりはない。
ちょっと修行に行ってきます、とそれだけ告げた。
どうして早く言ってくれなかったの、送別会とかしなきゃダメだし、俺はイタリアに行ってほしくないよとなんとも十代目らしい、優しいお言葉を頂いた。

けれど俺はこのまま日本にいるつもりはない。
十代目の家から帰ってから部屋の荷物を全部まとめて、片付いた部屋を見るとガランとしていた。


(もうここに来ることはないんだな)



…いや、来てはいけないんだ。



隣人などには適当にあいさつをして、マンションを出た。
外は風が心地よかった。

自分の長く伸びた影を見つめる。
耳に響く小さな虫の声を聞くと急に切なくなった。


ふと、山本の顔を思い出す。
あんなに冷たい態度をとって、それでも優しく接してくれる奴なんて今までいなかった。
皆に好かれてて、人気者の山本が、どうして。俺なんか放っておけばいいのに。
十代目が風邪を引いてしまったときも俺を昼食に誘ってくれて。
雨が降ってるときは、傘を貸してくれて。
些細なことかもしれないけれど、すごく、嬉しかった。
思い出す度、せつなくて、苦しくなる。


飛行場へ着いたとき、急に声が聞きたくなった。
窓の外は先程とは違いしとしとと雨が降っていた。


(…やまもと)


雨はどうしても山本を思い出させる。
この雨の中、山本は何してるんだろう。今どこでこの空を見ているのだろう。


「…!」


ずいぶん聞くのが久しぶりな、着信音が鳴り響く。
画面には、山本の番号。


「……もしもし」
「獄寺!今どこにいるんだよ!」


少し躊躇って、電話に出れば山本がそういきなり怒鳴ってきた。山本の怒鳴り声なんて今まで聞いたことがなかった。
電話の向こうから、雨の音と、バシャバシャと走る音が聞こえる。
ああ山本、走っているんだ、なんで、俺なんか放っておけばいいのに。


「…別に、関係ないだろ」
「あるに決まってんだろ!なあ、なんで俺にイタリア帰るって言わなかったんだ!?」
「……やまもと」
「意味わかんねえよ、冗談なんだろ!?」
「冗談なんかじゃ、ねえよ」


バシャバシャ、と走る音が消えた。


「なん、だよ、それ…」
「…ごめん…このままだと俺…お前のこと好きになっちゃいそうなんだよ…」


自分でも言っていることが滅茶苦茶だと思った。
逃げていることはわかってる。
山本、俺のことをもう呆れてしまっているかもしれない。
でも、もういいか、もう、会うことはないのだから。




「……そんなの…好きになれば、いいだろ…!」




一度、耳を疑った。

だから、行くな、行かないでくれよ…と山本が言っていることに、涙が溢れそうになった。
本当は、イタリアへ行きたくない。
此処に居たい。

けれど、





「……ごめん、山本。今までありがと」
「!獄寺、」





ぶつ、と電話を切った音が耳に響く。
ツー、ツー、と虚しい音を聞いて、声を押し殺して泣いた。


なあ、こんなときまで優しいこと言うなよ。
あいたく、なってしまうから。









(ほんとうは、好きになってしまうんじゃなくて、もう好きなんだ)













end
───────────
今の関係が崩れるのが嫌で、好きだと言えない獄寺と、本当はずっと好きだった山本。
弱々しい獄寺が書きたかったのですが弱々しすぎになってしまいました。
お気づきかもしれませんが、某曲より。

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